金木犀 | ナノ
























さらさらと風の音が聞こえる。
青年の目の前にはひとりの女性が立っていて。
甘い何か独特の薫りが彼の鼻を掠めた。



「ベアトリーチェ。」



重たい右腕を、名を呼んだ方へとのばした。
しかしその腕は捕まれることも触れられることもなく、宙に浮かんだままだった。



「最近、お前が遠く感じるんだ。」



戦人はそのまま微動だにもせず、自分にしか聞こえないような声で呟いた。
相変わらず戦人の瞳に映る金髪の人形のように表情ひとつ変えない魔女は何も言わなかった。



「なあ、」



悲しげな彼の声と、風が微かに鳴る音しか響かない。
何かが遠くて、消えそうで。
自分の感情も何処かへふと無くなってしまいそうで。

そんな喪失感に似たものを感じながら戦人は目を伏せる。
解っていたんだ。
自分が創り出したのだから。
けれど気付きたくないのだ。
ベアトリーチェは"此処"にはいない。
追い求める先も定かではなくて。
ただせめて、自分の瞳には彼女が存在していて欲しかったのに。



彼と対峙した金木犀の香りが、"それは現実ではないのだ"と戦人に教えていた。

芳しい彼女に見合うのは何時でも棘のある薔薇だった。
彼女に似た金の花を散らすそれは、彼女を思い出すには不適だった。

ただ今だけは、黄金の蝶達に包まれている彼女を此の眼に焼き付けたくて、彼女とは違う香りの中、それを見つめていた。



「なぁ、ベア………」



一度目を覚ましてしまったら、もう彼女の名を呼べなくなってしまっていた。
その事実が、受け入れた自分を受け入れられなくて、微かに涙が滲む。

戦人は甘く誘うような、それでいて彼だけは突き放すような金木犀の香りの中、それに背を向けた。



"こんなところに彼女はいないのだ"



再び後押しされたようで、香りと共にひらりと舞う小さな小さな黄金の花が蝶と化すのではないかと期待するけれど、やっぱり振り返ってはいけなかった。
それが彼の本当の望みではないのだから。
もし本当に彼女が後ろにいたのだとしても、自分は振り返ることが出来ないだろう。


何故か、泣いている気がしたから。





















金木犀
(振り返っては、君が消えそうで)

















end







*あとがき

受験生ながら しかもまだリクエスト
残っていながら短編書いてすみません○┓
またには息抜きさせてください←


ちなみに私はEP7まだ未プレイな為、全く今原作が何処へ向かっているのか知りません。

まあ私は私がやりたいようにやろうと←

秋、なんか来なかった気もしますが、金木犀ですよね。
私は割と金木犀の香り好きです。
色も暖かい金色で綺麗ですし。
あの甘い匂いが、でもベアトではなくて。
金木犀には決して重ねてはいけないんですよね。
何処にいるのか、自分の気持ちが何処にあるのか解らず、重ねてみたくはなるけれど、それは欠陥のある幻でしかない。


今の私からベアトへの気持ちみたいなものをssにしてみました。
解らないシリーズですよね、わかります。
私はやっぱりシリアスの方が書きやすいかもしれない。
伝わってないかもですが(^_^;)

伝わらなくとも何か思いが込められていることが伝わればいいかなと(あれ


それではまたいつになるか解りませんが、また会う日まで!





11月12日



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