「………」
両親が死んだ。
それはもう呆気ないくらいに私の耳に入った。
理解してる、頭ではもうわかっている。
割り切るしかないんだ。
私の両親が死んだ事はすぐに里中に広まった。
葬式の話はいつの間にか進んでいて、気付いたら当日になっていた。
「…惜しい人達を亡くしたな」
「えぇ、本当に…」
「あの子も一人残されて可哀相に」
「一人残されたといえば、うちは一族も…」
みんなそれぞれ言っているが、そんなのもう知らない。
もう、どうでもいい。
―ポフ
頭に乗せられた手の感覚。
「…カカシさん」
「ユウちゃん…」
カカシさんの目。
その目は他の人と似ているようで違うような目をしていた。
「何か困った事があったらいいなさい。できるだけ力になるから」
「…ありがとうございます」
でも…今は放っておいて欲しかったんだ。
葬式もあっという間に終わり、やっと一息つけるようになり、私はある場所に来ていた。
三本の丸太がある演出場。
そこには多くの英雄達の名前が刻まれた石碑がある。
英雄達といっても普通の英雄じゃない。
任務の途中で死んでしまった…殉職してしまった英雄達。
つまりこの石碑は慰霊碑なんだ。
そしてつい最近、二人の名前がこれに刻まれた。
"佐々木ナツコ"
"佐々木ヤスノリ"
その名前を指でなぞる。
あーぁ、いくらラブラブだからって二人一緒に死ななくたっていいじゃん。
私はどうすればいいのさ。
「…もうすぐ雨が降るかもしれんぞ」
「…火影様」
振り返った先には火のマークの笠を被ったおじいちゃん、火影の猿飛様がいた。
「…別に濡れたっていいんです」
顔を慰霊碑に戻す。
「風邪をひく」
「ひいたってかまいません」
「じゃが…」
「…今はここにいたいんです」
「………」
火影様は黙った。
しかし動く気はないらしい。
…一人にして欲しいのに。
「…二人は優秀な忍じゃった」
「………」
「仲間に優しく敵にきびしく、よく状況を理解しどんな困難にも諦めなかった」
「………」
「しかし運命とは残酷なものよ…」
「………」
「こんな小さい子供を残して…」
「……勝手だ」
「!…」
「みんな、勝手だ」
両親も、葬式に来ていた人達も、カカシさんも、火影様も…勝手だ。
「勝手に置いて、勝手に死んで、勝手に憐れんで…結局は何もしないくせに」
あぁ、もう…自分なに言ってんだろ。
相手は火影様だと言うのに。
「忍がどういう仕事をするのかを学んでいる時点でこうなる事は覚悟してました」
「………」
「人間はいつ死ぬかわからない。それは今も昔も同じ」
「……?」
ポタッと水滴が頭に落ちた。
どうやら雨が降ってきたらしい。
「両親の死は悲しいです。でも悲しみに負けたくないんです。だって両親の思い出はちゃんと私の中にあるから」
「楽しかった事も、嬉しかった事も、喧嘩した事も、全部あるんです」
「…なのに…可哀相だの…憐れだの惜しいだの…勝手に言わないで欲しい」
「たしかに、少ない思い出かもしれないけど」
「親孝行も全然できなかったけど」
「あの二人は私の両親で」
「私はあの二人の子供で」
「それは二人が死んでも変わらない事実で」
「なによりも大事な思い出で、絆なんです…!」
「とっても…とっても大事な…!」
気付いたら火影様はいなくなっていて、最初は小降りだった雨も本降りになっていた。
それでも動こうとしない私は、きっと病気だ。
「……?」
ふと、急に雨が当たらなくなった。
顔を上に上げるとそこには傘があって。
後ろを向くと火影様が優しい顔で佇んでいた。
「…風邪をひくじゃろう」
今だけは
((すぐ、立ち直るから))
((今だけ…ここにいさせて))