「今日は私も父さんもいないけどいい子にできる?」
「うん。どこ行くの?」
「お仕事よ。母さん、忍は引退したはずなんだけどねぇ」
忍の仕事用ベストを着て、長い髪を後ろにまとめ上げ、木の葉マークの入った額当てを身につけた母さんは初めてみる。
上忍を引退したはずの母さんが忍の仕事をする。
それがいったい何を示すのか…上忍の数が少ないのか、それとも…。
「…ちゃんと帰ってきてね?」
「大丈夫よ。簡単な仕事だから!」
母さんはそう言って私の頭を撫でた。
「夕ご飯は冷蔵庫にあるからチンして食べてね?あと寝る時は戸締まりしっかりしなさい。早めに寝るのよ?」
「分かってるよぉ…」
おっと、そんな事言ってる間にもうこんな時間だ。
アカデミー行かないと。
「…じゃ、アカデミー行くね」
「はい。いってらっしゃい」
「気をつけてね…」
「心配症ねー」
笑顔で手を振る母親を尻目に私は家をでた。
その日一日は、まったく授業に集中できなかった。
家にまっすぐ帰った私は、冷蔵庫にある夕飯をレンジにいれた。
「…一人か。久しぶりだな」
この世界に来る前は一人暮らしだった私。
たまに祐介や友達が泊まりに来るものの、大概は一人だった。
だから慣れていた。
今は一人が寂しいと少し思う。
一人は慣れたはずなのに。
それはこの世界の両親に出会ったからかな。
シカマルやチョウジに聞いたけど、忍をやっている親が夜に任務をするのは普通らしい。
かく言う私の父さんも、仕事で夜いないのはたまにある。
…この世界での忍は、なんというか…ヒーローのような存在な気がする。
でも、この世界の忍は昔の世界の兵隊だ。
正直なとこ自分から兵隊になろうなんて私には考えられない。
そして今日、私の両親は兵隊として駆り出された。
―…チン
夕飯が暖まったらしい。
レンジから高い音が鳴った。
前の普通、今の普通
((次の日、朝一番に私の耳に入ったのは、両親の訃報だった))