「ほらほらミーマイ、おいでおいで〜?」
「きゅ「キュイー!!」…」

ぽてぽてと呼ばれるままに歩いて行ったミーマイをリュードが抱きしめようとしたその瞬間、鋭いアタックをその顔面に叩き入れる。


「ぐはぁ……っ」
…どしゃあっ

「…暢気なものね、貴方達…」


オレの攻撃によって床に倒れたリュードを見て、シェラが深い溜め息をついた。









オレ達は今、追い返されて特にする事もなくコレルリの宮殿で暇を潰している。

……まぁ、オレは自己防衛で急がしく全く休めていないのだが。



「……ぐすん、カラスが虐めてきますよ、ミーマイ〜!」
「…きゅ、きゅう?」
「キュイ!!」


ふっと目を離した瞬間、今まで地べたにうずくまっていたリュードがもの凄い早さでミーマイに抱き着く。
慌てて体当たりをかますが、やはり人間の力に対してミーマイの力は小さすぎて。



(こ、このヤロー…!オレが…ミーマイが抵抗しない間に好き勝手しやがって…!)


目の前には、ミーマイにすりすりと頬擦りして満足げに微笑むリュードの顔。

……ミーマイが不満そうな顔をしているのは置いといて…







(な、なんだこの感覚…)

リュードが、憎い。




今までは自分以外のものにここまであからさまに懐く事はなかったのに。
大好きな音衝銃をいじっている時でさえ、オレの事を気にしていたのに。

あいつの優先順位の一番は常にオレで、オレが一言でも喋れば聞きいって、少し触れれば反応を返して、目が合ったら微笑えんで、離れたら当然の如く追ってきて……!






「……――――ッ!!」


息を飲んで、ハッと我に返る。

自分の中にぐるぐると渦巻く、このどす黒い感情。



(…………オレ、まさかミーマイ相手に嫉妬してる!!?)

…動物に?
ましてや自分の身体に?




(……………。)

ちらりとまだじゃれつく二人の姿を見て、なんとなく居心地が悪くその場を立ち去った。


…あの馬鹿に負けないくらい、どうやら自分も独占欲とやらは強いみたいだ。








-------------



「………あれ、カラス…?」

ふと気付けば静かになった部屋にカラスがいない事に気付き、両腕の中にしっかりとミーマイを抱えこみながら周囲を見渡す。



「……カラスならさっき出て行ったぞ。」
「え………?」

椅子に座りながら新聞を読んでいたサヴィナが、こちらも見ずに応える。
例えカラスの姿が変わっていたとしとも、その動向に気付かないとは何たる不覚。

あぁ、ミーマイに夢中だったからなぁー…



「どっ…どこ行ったんでしょうか?」
「知らん。」

…見事に一蹴されてしまった。




うむ、探しにいくべきか否か。








……と、いうか。勝手にどっか行っちゃうだなんてヒドいじゃないですか。

拗ねますよ、僕拗ねますよ?




…ふーんだ、別にカラスがどこに行こうと勝手ですし?
僕にはミーマイが居ますし?






……………


いや、
僕は全然心配なんかしてませんけ・ど。



……けど…







「きゅー〜…!」


ほら、ミーマイが心配そうですからね。
仕方ない。ああ仕方ない。
本当、気が進まないんですけどミーマイの為にも探しにいくとしますか。






「…いきましょうミーマイ!」
「きゅい!」


こくん、と頷いて走り出すミーマイ。
自分の身体がどこにあるかは本能的に分かっているのだろうか、迷う事なく駆ける。

跳ねるように駆ける。



慌てて追い掛けると、宮殿を飛び出したミーマイは路地裏へと入り込んでいくところだった。




(ミーマイ足はやッ!)

やはり自分の身体というのはそばにないと落ち着かないものなのか、走るミーマイの後ろ姿は何だか焦って見えた。














-------------




「はぁ、はぁっ、やっと追い付いたー…」


アヌエヌエの港付近で、ようやくカラスを抱えたミーマイを視認する。


輝かんばかりの笑顔で僕に笑いかけるカラスは軽く息が上がっている程度。
何故。

この場合ミーマイが凄いのかカラスの身体が凄いのか、僕には分からなかった。



「きゅい!」
「キュ。」

「カラスさーん…?」

つーんとそっぽを向いたまま目すら合わせようとしないカラス。

覗き込もうと近づこうとしたらキッと睨みつけてきた。


……傷つく。





そんなカラスをミーマイは…
「――って、ちょ、待ったぁぁあ!!」

大空目掛けてフルスイング。
思わず青ざめて走る。






ぽーんというか、びゅーんという感じで空高く投げ飛ばされたカラスを、僕は必死のスライディングで確保した。

いきなり宙に放り出された衝撃からサーッと顔を青ざめさせたカラスが、僕の腕の中でほっと安堵の溜息をついた。


ミーマイは僕がカラスを受け取ったのを見て満足げに頷くと、「後は勝手にどーぞ」と言わんばかりに少し離れた場所でこちらに背を向けた。

和解するキッカケをくれたのか。



「ミーマイ…」
やや乱暴なキューピッドの背中が輝いて見える。
あれ僕なんか言い回しキモいですか。

とにかく今の僕にはミーマイが救世主に見えました。




「キュ。」
まぁ、まだ問題山積みですが。
がくり。



「……カラスー…機嫌直して下さいよぉ、ついついミーマイにちょっかい出しちゃいましたけど、それはカラスを思った故なんですよー…」
「…………。」

「押してダメなら引いてみろみたいなー…いや確かに多少煩悩もありましたけど…」
「……キュー…」

「カラス…!」


僕の我ながら情けない声に、カラスが腕をよじ登り顔を覗き込んでくる。







ベチンッ。


「ぐがっ」
ほどほどのビンタが頬にヒットした。


「キュイッ。」
よしすっきりした、と言わんばかりの表情で再び僕の腕の中に落ち着くカラス。



これは許してくれた…のかな?




「かっ、カラス―――!!」
「ギュ」

感極まって抱き着く僕の耳に、カラスの苦しげな呻き声が届くことはなかった。







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