バタンと古びた小屋の戸を開け中へ入る。
目の前には崩れた天使像があった。
忘れもしないあの日の事が思い出される。
ジャコモに全てを知らされ、
戦いの末新しい飛翔機を受け取った、
あの日の事が。
前にここへきた時には、ジャコモ達に襲われたり、モンスター達がどうのこうのという話しで忙しく、
ゆっくり探索する暇もなかったが…
「ここで、昔暮らしてたんだよな……」
生活感溢れる小屋の中、そのままにされた食器類や棚に積まれたわらなどに目を留め微笑を浮かべる。
在りし日の、今だ残る温もりに顔を綻ばつつ部屋を探索していると、
窓から射す光に照らされまばゆく輝いているガラス玉を見つけた。
「…ビー玉?」
なんとなく気になり手に取ってみると、
それはくるくると色を変えながらより輝き出した。
「…にしてはデカイか。なんだコレ?」
「キュイ。」
「――…っうわ、ミーマイ!お前また人のマントに!」
ぬっ、と突如ミーマイが肩の上に現れる。
びっくりしてガラス玉を落としそうになっただろが。
拳大…手の平サイズ?
どうにも謎な物体は、小屋の中に不思議な光を満たしていた。
赤、紫、青、緑、黄……
「…………」
「――…カラスー、そろそろお昼よー!」
「あっ、あぁ今行く!」
綺麗な光の波に思わず見惚れていると、
小屋の外からシェラが急かしてきた。
慌ててそのガラス玉を懐に突っ込み、
小屋を駆け出る。
「キュイー…」
ふっと光が掻き消えたその時、心なしか残念そうなミーマイの鳴き声が聞こえた気がする。
「……相変わらず待遇がいいなここは。飯まで出してくれるか。」
「まぁ、ちょっとした見返りですよ。これくらいは贅沢させて頂きませんと。」
「ハッ、違いねぇ。」
悪戯っぽいリュードの笑みに、カラスがくすくすと笑う。
あれからディアディムに飛んだカラス達は城内にて部屋を割り当てられ、それぞれ豪華な昼食を楽しんでいた。
「よしっ、美味かったー…ごちそーさんっと……あ。」
「カラス、何ですかそれ?」
昼食を食べ終え席を立とうとしたその時、ふと例のガラス玉が懐から零れ落ちた。
コロ、と椅子の足にぶつかり止まる。
「あぁー、空中山脈で見つけてそんまま持ってきちゃったんだよなぁ〜…」
「こんなガラス玉を?」
「いや…さっきは光って……」
「キュイィー。」
『あ。』
どこから現れたのか、ミーマイがガラス玉を拾い上げたカラスの肩に飛び乗った……その時。
パァ…ッ……
「あ、ほらほらぁ…」
「うわぁ本当だぁ…」
『……って、え?』
「キュー。」
いま……今、明らかにミーマイに反応して光りだしたよな?
ますますもって謎な物だ。
「一体何なんでしょうかね……って、ぁ、ミーマイ!」
「キュ。」
「へ?」
うーんと床に屈み込み頭を捻っていると、壷にぶら下がって遊んでいたらしいミーマイが突如バランスを崩した。
タプリと、中に入っているらしい液体が揺れる音がした。
「う、うわぁぁあぁっ!?」
「カラ……あ、あぁー…」
ザッパァンと、かなりの量の液体がカラスとミーマイと、ガラス玉に降り注ぐ。
ピチャリと飛沫が顔につく。
(……しょっぱい…塩水か?)
ギリギリのところで難を逃れたリュードは暢気にそんな事を考えていた。
水に流されたガラス玉がころころと転がっていく。
気のせいだろうか、さっきより輝きを増してるように見える。
「カラスー、壷は無事ですから安心してぶっ倒れてて下さいねぇー。」
ゴットンと、床すれすれで受け止めた壷をカラスの隣に置く。
途端に罵声の雨が……来るかと思ったのだが、カラスは以前沈黙を保ったままピクリとも動かない。
……………。
「……か、カラスー?」
つんつん。
「ちょ、ちょっと!」
ゆさゆさ。
流石に少し心配になり、びしょ濡れのカラスを激しく揺すってみる。
するとやっと気がついたのか、ゆっくりと顔だけ上げてこちらを見る。
「…―――っ…」
「あ、カラ……っ!」
「…きゅい。」
………。
え、は、へっ?ついに幻聴でも聞こえるようになったんですかね、僕。
カラスが、あのカラスが「きゅい。」なーんて……
「きゅぅぅー?」
「ひっ!?」
小首を傾げて疑問系に鳴くカラス。その瞳にはいつもの鋭さは無く、彼特有の人を見下したような雰囲気も今はほんわかとした雰囲気になっている。
ちょっと…これってかなり……
「……か、かわいいじゃないですかぁぁあぁっ!!」
「きゅ、きゅうぅー!」
思わずガバッと抱きしめると、困ったように鳴く。
あれ、鳴く?そういえばカラスどうしちゃったんで……
「キュィィイッ!!」
「ぶっ…!み、ミーマイ!?」
きゅいきゅい鳴いているカラスを抱きしめたまま考え耽っていると、突如横から、何か弾力のある物体が……ミーマイがぶつかってきた。
ぼよんぼよんと頭の上で跳ね、どうやら怒っているようだ。
「あ、あれ?ミーマイってこんなに凶暴でしたっけ!?」
「キュ、キュ、キュイーー!」
「痛っ、いたたたっ!」
どうにも様子がおかしい。
カラスもミーマイもどうして…
「ん?」
「きゅ?」
「キュイ!キュイーッ!」
きゅい、としか言わなくなったカラスと、突如凶暴化したミーマイ。
まさか。まさかまさかまさか!
「――…かっ、カラス?」
「キュイッ!」
ピッと小さな体を指差し叫んでみれば、コクコクと上下に振られる小さな頭。
その瞳には、確かに彼の持つ鋭い光が宿っていた。
「…か、カラスとミーマイが…入れ代わったぁぁあぁっ!?」
慌てふためく3人の頬を、ガラス玉から放たれる光が七色に染め上げていた。
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