裏口 | ナノ


▽ ちょっと耳貸して


「あふ……、ゼロス……、」
「ん、どーしたの?」
「んっ……、あ、あっ、ン…!」
「あーあ、可愛い顔しちゃって。…そんな顔されると、もっとすごいことしたくなる。」
「ひ…ッ、や、ぁ……っ!」

思わず大きな声を上げてしまい、慌てて口許を押さえた。
今日のゼロスは意地悪だ。
いったい何が原因なのか、それすらもわからないまま、こうして翻弄されている。

クラトスが帰宅したとき、ゼロスは既に家にいた。
ただいま、と言ったときは普通におかえり、と返事をしたはずだ。
そのあと、クラトスが上着を脱ぐのをじっと見ていたと思ったら、いきなり抱き着いて来て、頬や首筋にキスをされた。
甘んじてそれを受けているうちに、ベッドに引っ張って行かれ、押し倒されて、組み敷かれた。

欲求不満か?
いや、それほどに間は空いていないはずだ。
数日前の晩にも、互いに求め合い、抱き合った。
中に注ぎ込まれた情熱が、案の定始末におえなくて、翌日の仕事に少々差し支えたことなど、まだ記憶に新しい。

「……何考えてんの?」
ゼロスの片手、やんわりとクラトスの下半身を撫でていた方の手が、臀部にのびて白い膨らみを割る。
その間に息づく花芯に舌を這わされ、シーツについていた背中が弓なりに浮いた。
「ぅあッ…! だめ、だ…、そんな……!」
「舌、入れていい?」
「ッ、嫌…!」
嫌と言っているのに、それは無遠慮に入って来て、内部を犯す。
狭い中をこじ開けて、探るようにうごめくそれは、激しい羞恥とともに、えもいわれぬ感覚を生み出した。
「や、め……! ア、は…ッ!」
膝の裏を自分で持ち上げさせられた格好は、他人から見たら、まるでこの行為を強請っているように見えるかもしれない。
こんな、いやらしく、はしたないことを。
恥ずかしくて、いたたまれなくて、消えてしまいたくなる。

やがて内部を蹂躙していた舌は、名残惜し気にそこを離れ、膝裏からも自らの手が外された。
代わりにゼロスの手の平が太股を押さえ、割り開く。
開かれた脚の向こうに視線を遣れば、力無く勃ち上がる自身と、対象的に張り詰めた、ゼロスのものが目に入った。
「………いい?」
聞かれて、すぐには答えられないでいると、肯定したと思ったのだろう。
入り口に、舌と同じくらい熱く、その何倍も太く硬い先端が押し付けられた。
「っア……!」
ぐちゅり、と侵入してくるゼロスのもの。
「どう? 痛くない?」
無理やり押し拡げながら入ってくる大きなそれを、浅い呼吸とともに、少しずつ受け入れて行く。
「ゥ、あ……ッ」
痛いというよりも、苦しい。
だがその息苦しさも、すべて飲み込み終える頃には、さほど感じなくなっていた。

「すげえ、キツイな……。食いちぎられそう。」
薄く笑って言うゼロスに不意に悔しくなって、なら、本当にそうしてやろうかと、下半身に力を入れる。
だが、それは相手をますます興奮させただけだった。
絶妙のタイミングで、狭まった内壁を強く擦り上げながら、ゼロスが身体を揺らし始める。
「ぅアっ、ンぅ……!」
「ごめん、もう我慢できない。」
存外に深い場所にゼロスを感じ、こんなに奥まで侵入されていたのだと思い知る。
だが、その灼熱が出入りを繰り返すたび、感じていた違和感が、強い快感に塗り替えられていくのがわかった。
「気持ちいいの?」
「ぅ、うァ、は……!」
必死に首を横に振ってみるも、ゼロスにはお見通しのようだ。
心も身体も、ゼロスを欲してすっかり蕩けているのだと。
乱される内部は熱く濡れ、彼のものを離すまいと、勝手にきつく締め付ける。
こうなってはもう偽れないと観念したクラトスは、宙にさ迷わせていた脚を、ゼロスの腰に絡ませた。
「あ、やらしいなあ、クラトスは。そんなに俺のことが好き?」
珍しく積極的なクラトスをからかうように、ゼロスが言う。
その挑発には乗らず、敢えて素直に答えた。
「ッ……、好き、だ……!」
「……! もう、止めらんねーぞ。」
「ンっ、あ、いや、あァッ……!」
途端、ゼロスの動きが、激しさを増す。

響く濡れた音。
軋むベッド。
呻くように漏れる声。

大きく前後する腰は、ときにぶつかり合い、鈍い音を立てる。
感じる場所を繰り返し擦り上げられ、意識が飛びそうになった。
細く目を開ければ、間近に見える、ゼロスの顔。
端正な表情が快感に歪む様は、ひどく官能的で、体中が更に疼いた。

もう、彼以外、何も見えないし、感じられない。
ゼロスにしてもそれは同じようで、先程から目を逸らすことなく、じっとクラトスを見つめている。
絡む互いの視線が、快感を更に増幅する。
きつく抱き合い、喘ぎながら、沸き上がる欲求に任せ存分に求め合った。



「………で、何故いきなり、こんなことを?」
行為のあと、まだ気怠い体を持て余しながら、クラトスはゼロスに尋ねた。
気づけば夕食も摂っていない。
せっかくあれこれと買い物をしてきたというのに。
「んー……、」
ゼロスははっきりしない声を発し、天井を見上げている。
あまりにもギュッと抱き込まれているため、その表情は窺い知れないが、何やら決まり悪そうにしているようだ。
きっと、言いにくい理由なのだろう。

「……まあ、言いたくないなら構わないが。」
「………ヤキモチだよ。」
「なに?」
「妬いたの。アンタが、あんまり楽しそうに出かけたから。ちょっとつまんない気分だった。」

そういえば今日は旧友のユアンと約束があったのだった。
主に仕事のことでの打ち合わせだったが。
自分はそんなに楽しそうだったろうか。
そんなことはないと思うのだが、ゼロスにはそう見えたのだろう。
「あ、今、笑っただろ。」
「……いや。」
「嘘だ、笑った。」
そんなに可笑しいかよ、と文句を言ったゼロスに、教えてやるべきだろうかと、クラトスは思案した。

可笑しいのではなく、嬉しかったのだ、と。

そんなことを言ったら、また組み敷かれてしまうかもしれない。
それも悪くはないが、もう少し、拗ねるゼロスを見ていたい気もする。
クラトスはゼロスの肩口に顔を埋めながら囁いた。
「ゼロス、ちょっと耳を貸せ。」
「ん? 何よ?」
「そんなことで妬くな。……私は、おまえが一番可愛い。」
笑い混じりに告げれば、ゼロスは心外だとばかりに抗議した。
「ばっ…、なに言ってんの。可愛いのはアンタだろ? 俺さまはカッコイイんだよ!」
そう言って口をとがらせる彼は本当に可愛らしくて、愛しくて、
言葉でくらい優位に立たせてくれ、と言って、口づけた。
それ以外は、心も、体も、すべて委ねてしまっているのだから。
まあ、自分より年若い彼は、いまひとつ、それを実感できていないのだろう。

再びくつくつと笑うクラトスに、ゼロスはますます機嫌を損ねた。
おかげで、今度はギブアップを宣言するまで、貪りつくされる羽目になってしまった。

End.


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