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▽ 祭りの夜


「今日はお祝いだよ」

そう言ってしいなが用意してくれたのは、桃の花、 白酒、そして彩りも華やかな料理の数々。

春も近づいたミズホの里では、雛の祭りが催されている。
家々には可愛らしい人形が飾られ、少女たちはそんな人形たちに負けじと、思い思いに着飾って、つかの間の宴を楽しんでいた。

「いやー、目の保養だねえ」

縁側に腰かけたゼロスは、白酒を楽しみながら、仲間の女性たちを眺めていた。

未成年のしいなやコレット、プレセアはもちろん、リフィルも華やかな着物を身に纏い、楽しそうな笑みを浮かべている。

しかし。

「……アンタは着ねーの?」

隣に座るクラトスに目をやれば、彼女はいつも通りの出で立ちで、皆に優しい眼差しを向けていた。

「ああ、私は……」
「何で?」

問うと、クラトスは遠くに視線を移して答えた。

「ひな祭りは、元々、子の健やかな成長を願う行事だからな。その昔は、男女の区別なく、人の形を模した紙などに穢れを吹き込み、水に流したものだ」
「ふーん」
「今では、子女が幸せに暮らせるように……、例えば、良き伴侶を得られるよう願う意味もあると聞く。だから、子を持つ女性は、これといって着飾らない」

クラトスはそれだけ言うと、また皆に視線を戻した。
確かに、クラトスはロイドの母だ。
でも、

(俺様は、アンタの着飾ったところも、見てみたかったんだけどな)

その一言は、言えずじまいだった。
相手がクラトスじゃなかったら、歯の浮くようなセリフやおねだりも、スラスラ出てくるのに。

(あー、何でなんだろ。コイツといると、調子狂うぜ……)

春の風が、薄紅の花びらを舞い上げる。
目を反らし、黙りこむゼロスに、クラトスは眉を寄せ、困ったような笑みを浮かべた。



その夜。
しいなに呼び出されたゼロスは、小さな鍵をひとつ、預かった。

「何だよ、これ?」
「離れの鍵だよ。 今夜はそっちで寝とくれ」
「ええ〜、離れってあそこだろ、あのちょっと陰気な……」

しいなの家が管理している離れという名の小さな建物は、屋敷の裏手にある。
森にも近く、普段はほとんど使われていない。
いつもは、屋敷の中の和室に泊めてくれるから、そこに入るのは初めてだ。

「ガキんちょやロイド君と一緒にしてくれればいーだろ? なんで俺だけそっちなんだよ」
文句を言うと、しいなはフンと鼻を鳴らして言った。

「そりゃ人形を飾ったり、宴会したりで部屋が足りないからだよ。ロイド達の部屋だって、布団二つでいっぱいだしね。それに、女の子を泊めるにゃ、あそこはちょっと物騒だろ?」
「あ、そーですか……」

要するに、成人男性なら問題なしということか。
まあ、自分の腕っぷしを信頼してくれていると思えば、そこまで悪い気もしないが。

「じゃ、頼んだよ」

しいなはそう言い放つと、コレット達のところに戻って行った。
去り際に、気になる言葉を残して。

「言っとくけど、あんまり羽目を外すんじゃないよ」


To Be Continued.

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