裏口 | ナノ


▽ 麗しの君


「あのさ、天使様。 これ、いったいどういうわけ?」
「いいから。大人しくしていろ」

城で開かれた宴は、盛況のなか終わりを迎えた。 神子として一仕事こなしたゼロスは、お目付け役の天使とともに、先ほど、屋敷に戻って来たばかり。

なのに、堅苦しい正装を解く間もなく、ゼロスは、自室のベッドの上、仰向けに横たわっていた。
いや、正しくは押し倒されていた。

見下ろす瞳は灼熱の赤。
綺麗な色だ、などと場違いにも見とれていると、それが近づいて来て、深く口づけられた。
熱く、柔らかい舌が入り込み、好き勝手に口内を蹂躙する。

最近、手解きされたばかりの行為。
だが、いつもはゼロスが主導権を握る側だ。
その頬を掴んで、貪り返してやりたい。
そうして怯んだところを、形勢逆転とばかりに組み伏せてやりたい。

だが、ゼロスの両手はしっかりと押さえつけられていて、びくともしない。
体格は、まだまだこの天使の方が上だ。
未成年のゼロスには、たちうちなど到底出来ない。

やがて、唇が離れた。
そして、衣服がはだけられる。
手の込んだ衣装だが、綺麗な指が、滑らかにボタンを外していく。
「なあ…………、本当に、何する気だよ?」
普段、手合わせのとき以外、至って物静かな天使は、やはり黙ったまま、自らの服も緩めた。
その頬は酔ったように染まり、瞳は戸惑いの色を浮かべている。
「この間、教えたことをしたい。……だめか?」
恥じらうような声を聞いて、ゼロスの体温が上がった。
このお堅い四大天使が、初めて自分から、欲情してくれているのだとわかったから。


「んッ……、クラトス、キツい……!」
狭く、熱い天使の中に招き入れられ、ゼロスは歯をくいしばった。
「っ、少し、こらえて、くれ……」
ゼロスの上に跨がった天使は、徐々に腰を落として行く。苦心して、一番大きなところを、今まさに飲み込もうとしているところだった。
ゼロスにしてみればたまったものではない。
敏感な先端を、少しずつ、じわじわと焦らされながら、極上の感触で食まれているのだから。

こういう交わりかたがあるのだとは知っていた。
男女の行為の指南画でも、幾度か目にしたことがある。
だが、それを自分が、それも天使主導で施されるとは。
興奮と戸惑いがない交ぜになり、意識が霞んでくる。

やがて、すべてを収めきってしまうと、天使はゆっくりと腰を揺らし始めた。
抑えた、しかし官能的な声と、出入りに伴うお世辞にも上品とは言い難い音が、ゼロスの耳をこれでもかと刺激する。

挿入しているのは間違いなく自分なのに、何となく犯されているような気分だ。
それは、自由がきかないせいもあるし、上に乗っているクラトスが、いつにも増して雄々しいせいでもある。
されるがまま、というのは、ちょっと性に合わないが。

(でも……、悪くないな)

天使の、いつになく欲に濡れた表情を見上げているのも良いものだ。
普段、ゼロスに突かれているときよりも余裕の無い顔で、それでいて、積極的で。
その上、やけに格好よく見おろして来るから。

「ゼロス……、気持ちいいか?」
「うん。もうイっちゃいそう」

素直に甘えれば、天使は嬉しそうに目を細めた。

直後、激しさを増す揺さぶりと、締め付け。
なすすべもなく、クラトスに組みしかれ、敏感な部分を熱く激しく擦られて、ゼロスは喘いだ。
「あ、あァッ、クラトスっ、出る、出ちゃう、から……!」
「ああ、構わない。我慢しないで、出しなさい」
「そんな、でも……! あ、あぁ、イク…っ!!」
抗い難い、目も眩むような快感に、ゼロスは絶頂を迎えた。
「く…ッ! ゼロス……っ!」
注がれた熱い飛沫に体を震わせながら、クラトスも達した。ゼロスの胸に、腹に、天使の放った熱が飛び散る。
「は……、すごい、天使様……、」
ずるり、と抜かれた感触とともに、頬に落とされる口づけ。
優しく、甘く吸い上げられて初めて、ゼロスは自分が涙を流していたことを知った。
それほどまでに激しい快楽を味わったのは初めてのことだった。

*******

「いや、まさか泣かせてしまうとは……。すまない、私としたことが」
もしかして、傷ついたか? などと心配げに顔を覗き込まれて、ゼロスはばつが悪そうに視線を逸らした。
「や、そうじゃないけど……。何だってこんなことしたんだよ?」
すると、今度はクラトスが、困ったように視線を外した。
「それは……、正装したお前が、あまりにかわ……、いや、格好良かったから、つい」
「今、可愛いって言おうとしたろ?」
「いや……、そんなことは」
「はぁ……。ま、どっちだっていーけど」
ゼロスは呆れたように、隣に横たわる天使を見た。

気まずそうに、眉尻を下げ、唇を噛んでいる。
おおかた、一人反省会でもしてるんだろう。
(ったく……、可愛いのはアンタじゃねーか)
ゼロスは、よいしょ、と身を起こすと、今度こそ、天使の上にのし掛かった。

「さーてと、じゃ、今度は俺様がいただきますかね」
「ゼロス……?」
「今度はアンタを泣かせてやるよ。覚悟しな」

その宣言どおり、ゼロスは、天使が涙ながらに許しを乞うまで貪り続けたのだった。

end.

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