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「ポッド、そろそろクリスマスの限定メニューを考えておいてくださいね」

「おー。もうそんな時期か」


閉店後、テーブルの片付けをしていた俺に、厨房からコーンがひょっこり顔を覗かせて言った。

主にメニューだとか店のレイアウトだとかを決めているのはデントとコーンだけど、バレンタインとかクリスマスとかのイベントメニューは、一応俺も一緒になって無い脳をフル活用して考えている。


「クリスマスかあ。ポッドは今年も☆ちゃんと過ごすのかい?」

「フッ、まぁな」

「ポッドの癖して生意気ですね。寄りによってあんなにかわいい子が彼女だなんて…」

「全くだよね」


イヤミとも妬みともとれるデントとコーンの言葉に鼻で笑って、勝ち誇った笑みを浮かべる。
精々嘆き悲しむがいい、負け犬どもめが!


「お前らはどうせ今年も明石家サンタでも見ながら不幸話聞いてシングルベル鳴らすんだろ?」

「えぇ、えぇ、どうせシングルベルですよ」

「いいよなぁ、巨乳美女と性なる夜…」

「オイ、何かちょっと発音違くねぇか」

「違っても違くなくても事実なんでしょう?」

「まぁな」

「ポッドのくせに!」


まあ100パーセントそうだと決まったわけではないが、あわよくばそっちの方向に持っていってしまおうと考えていることは否定できない。


「んじゃあお先。これから俺はその可愛い可愛い彼女と約束あるからさ!あとは頼んだぜ!」

「くっ…!」

「ちくしょう羨ましい!」


ギャーギャー騒ぐ悲しきシングル達は無視して一旦自室に帰り、さっと着替える。
こんな寒い中☆を待たせるわけにはいかないからな!俺ってば相変わらず紳士。






…ところが、店を出ると☆は既に俺を待っていた。

やべぇと内心焦りながら走って近付くと、☆も俺に気付いて駆け寄ってきてくれた。


「☆!悪ぃ、待たせて…」

「気にしないでください!お仕事、お疲れ様です」


パンッ!と顔の前で手を合わせて謝ると、☆は慌てて両手を振って、天使のような笑顔をくれた。

…可愛い。めちゃくちゃ可愛い。
毎回この笑顔を見る度に、俺は☆にどっぷりとはまっていくのが自分で分かるんだ。


「謝らないでください、ね」

「っ、」


顔の前で合わせていたてをそっと握られ、本人は自覚してないんだろうけど、上目遣いで首をちょっと傾げて見つめられて、

ああもう、心臓うるせえ!でも可愛い!


「お、おう、サンキュ…って!☆、手ぇめちゃくちゃ冷たいじゃねえか!」

「え…、そうですか?」


ドキドキしっぱなしで気付かなかったけど、☆の手は氷のように冷たかった。
以前☆は冷え性だときいたことがあったけど、それにしても冷たいの度合いを越えてる。

っつうことは、そんだけ長時間待たせちまったってことだよな?

…っああもう俺、つくづく情けねぇ。


「俺が待たせておいてなんだけどさ、早く行こうぜ。☆が風邪ひかないうちに!」

「…はい、ありがとうございます」




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毎日ジムや店で忙しい俺は、なかなか☆に会えずにいる。
それがお互い(って言うか主に俺が)寂しくて、店が早めに上がれた日は、こうやってデートをする。

デートと言ってもチープなもんで、時間が遅いから適当に町を歩いたり、その辺の店に寄ったりしかできない。
それでも会えないよりはずっとましだ。
☆が俺の隣にいて、一緒の時間を過ごしてる。たったそれだけのことなのに、疲れた心がどんどん癒されて、満たされていくんだ。

一応俺より年上なのにちっちゃくて、しっかりしてるのにほっとけなくて…何だろうな、総合すると…天使?女神?

…何か恥ずかしくなってきたから、のろけ話はまた今度してやるよ。


「あ…ポッドくん、もうすぐクリスマスですね」


ほら、と☆が指さした方向を見上げると、小さなショップの窓にクリスマスイベントの告知ポスターが貼ってあった。


「そうなんだよなぁ、俺もクリスマスのメニュー考えてくれって言われちまったし」

「へえ…、ポッドくんのお店でも、クリスマスイベントをやるんですね」

「もし暇だったら食べに来てみるか?」


うまく作れるか分かんねぇけど、と付け足すと、☆は少し驚いたような顔をして、それからたちまち笑顔になった。


「え…、い、いいんですか…!?」

「?当たり前だろ?寧ろ大歓迎だって!」


☆なら断る理由がない!

…そういえば☆は最近、ほとんどオープンしている時の店に来ていないような気がする。

…何か理由でもあんのかな…?


「じゃあお昼頃、向かいますね。楽しみにしてます」

「お、おう!」


…まあ、☆も嬉しそうだしいっか。


「…あ、もうこんな時間ですね…」

「うわ!マジだ!時間経つのはえーなぁ…」


どちらともなく見つめ合って、寂しそうな笑みを浮かべ合う。
もうちょっと、いや、まだまだずっと一緒にいたかったけど、遅くまで女の子を連れ回すのはさすがの俺でも気が引ける。


「明日もお仕事頑張ってくださいね」

「おう!☆もあったかくして寝てな」

「…はい」


じゃあ、おやすみなさい。
そう言って、するりと俺の手を離して背を向けた☆。素っ気ないように見えるけど、これは☆のささやかな強がりであって、優しさなのを知っている。
うだうだ時間を引き伸ばしても余計に寂しいだけだって、分かっているから。


…たった一瞬なのに、もうその温もりが恋しくなって。俺は思わず☆の小さな背中を抱きしめた。


「わっ…ポッド、くん?」

「………」

「…?」

「おやすみ、☆」


そっと振り向かせて、軽くキスをした。
☆は恥ずかしそうに、でも嬉しそうにふわふわ笑って「はい、」と小さく呟くように言って、歩いて行った。



「…………ハァ、」


…寂しい。

…………。

…って!何言ってんだ俺!そんなことじゃいつまでたっても情けないままだぞこの野郎!


そう自分に言い聞かせ、小走りで店へと戻った。
これから☆のためにスペシャルメニュー、考えないとな。







(………ハァ)


(…また始まりましたね。)
(慰めてあげなよ。)
(嫌ですよ。)



(いやぁレンアイは辛いねぇ、ポッド!)
(あーもー一人にしてくれよ!)




クリスマスはぜってーこいつらの前でイチャイチャしてやる。


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