エイプリルフール企画 | ナノ
※〜ハニーの人
「エイプリルフール…です、か?」
「うん」
「それは、何かの記念日ですか…?」
「…え、☆…エイプリルフールを知らないの?」
「聞いたことはありましたけれど、どういう日かは知らないです…」
「…世の中には色んな人がいるね」
少し呆れ気味で"エイプリルフール"について説明してくれたのは、私の幼なじみのユウキくん。
なんでも、一年で一度だけ嘘を付いていい日、だそうです。
「そうだったんですか…、怖いですけど、ほんのちょっとわくわくしますね」
「せっかくだから、☆も"ポッドくん"に嘘、付いてみたら?」
「ええっ!そんなこと…」
そんなことしてポッドくんに嫌われたりしたら…
私、毎年エイプリルフールになる度に落ち込んでしまいます…
「何も悲しませたり怒らせたりするだけが嘘じゃないんだからさ、ちょっとがっかりさせる程度のものならいいんじゃないかな?」
「がっかり、ですか…?」
「うん。…そうだなぁ、例えば…─」
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夕飯時を過ぎて店の客足が落ち着きだした頃、カランカランとベルが鳴った。
「いらっしゃいませー!……って、☆!?」
「こんばんは」
入り口を見ると、そこにはチルットを連れた☆の姿。
☆は営業してる店に滅多に来ないから、驚いた。
「…たまには美味しいデザートでも、と思って来ちゃいました。…あの、迷惑、でしたか…?」
そんな俺の心情を察したのか、☆が申し訳なさそうに肩を竦めた。
…迷惑?そんなわけない!
「迷惑なんかじゃない、来てくれてありがとな!…その、会えて、嬉しい。」
「…!」
なんだか照れくさくって頬を掻きながらそう言うと、☆も恥ずかしそうに、でもいつものふわふわした笑顔をくれた。
…それから厨房からのジトッとした視線が気になった俺は、☆を窓際の特等席に案内した。
「どれでも、好きなものを選んでくださいね」
「チルチルッ」
☆はチルットを膝の上に乗せて、一緒にメニューを見ている。
夜仕様のほのかな光に照らされた☆は、いつもより色っぽく見えた。
「…ポッド、休憩入ってきていいよ?」
「…え、でもまだ時間じゃないぜ?」
「☆ちゃんが気になって仕方ないって顔に書いてあるからさ。…洗い物の手も止まってるしね」
「…あ」
…無意識に☆の方をボケッと見てたらしい。
我ながら情けないとは思うけど、垂れ流しにしていた水道の水を止めて、デントの気遣いに甘えることにした。
「☆、お待たせ」
「わぁ、ありがとうございます」
「チルチルッ」
☆のオーダーしたシフォンケーキとチルット用のポケモンフーズ、そして自分用のレモンティーを持って☆の隣に腰掛けた。
「あ…お仕事、大丈夫ですか?」
「デントに休憩貰ったんだ」
「…そうだったんですね」
ほっとしたように、でもほんのり顔を赤くして☆が笑ったから、つられて俺も赤くなった。
その傍らでは、花の形をしているポフィンというポケモンフーズを、チルットがキラキラした目でツンツンつつきながらもぐもぐしている。
擬音が多いって?見たまんま伝えたらこうなったんだよ!
「…美味しいですっ」
シフォンケーキよりもふわふわした☆の笑顔。
…そんな喜んでくれんなら、毎日でも作るのにな…
「そういや☆、店に来るなんて珍しいな?…嬉しいけどさ」
「…あ…」
何となく言うと、何かを思い出したように声を上げ、それから気まずそうに視線を逸らした。
…もしかして俺、何かまずいこと聞いた…?
「…あの、ポッドくん…実は、ちょっとお話があって…」
「…お、おぅ…」
…え?なんだこの空気?
…雰囲気からして、いい話じゃないよな…?
ちょ、ちょっと待て。今までの行いを振り返ってみよう、
…と言っても最近は忙しくて電話したりメールしたりしかできなかったけど…
…はっ!もしやそれが原因か!?
いわゆる"私と仕事どっちが大事なの"!?
いやいや、☆はそんなこと言わねえし☆も仕事あるし…
!!いやもしかすると逆に☆の方が俺より仕事のが大事なのか!?
「…あの、私…」
「………」
「………妊娠、しちゃいま、して」
…………………
〜3分経過〜
ガシャンッ!!
「わっ!!あ…ポッドくん、ティーカップが…」
「ま…マジか…☆」
「え…」
「妊娠…子ども…できたってことだよな…」
…………
…マジかーーーーーーーーー!!!!
いや嬉しいぜ!?嬉しいけどよ!!!
俺たちは結婚もまだな訳だし、俺自身☆と子どもを養う経済力が充分にあるわけじゃないしさ!?
でも俺の…その…俺のせいでデキたってことだしさ!!??
「……………」
「……ポッド、くん…?」
…☆…
「…辛かったよな…☆…」
「…へ」
「ここまでひとりで…抱えて…さ…」
「…いえ…あの」
「決めた…俺…腹、括る」
「……え…」
「俺には家族を養える力はないかもしれない、でも☆を愛する気持ちは誰にも負けないんだ、…だから☆、俺と結」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「…?」
ムードなんてこの際関係ない、とにかく☆に対する気持ちをぶつけよう、と一世一代の告白に踏み切った俺を、☆が遮った。
「あの………ごめんなさい」
「…!?」
……………
……ごめんなさいってことは、お、俺
プロポーズ、断られた…………?
「…俺、何かしたか…?」
「へっ?」
「俺、☆に嫌われるようなこと何かしたか…!?もしそうだったら、全力で謝る!直す!!……だから…俺のこと…嫌いにならないでくれ……!」
「!!ち、違うんです!!」
「……?」
違う…って、なにがだ…?
「あの…今日は、4月1日ですよね。何の日か知っていますか…?」
「…え」
4月1日…?
…新年度が始まる日、とかか?
「ポッドくん、…エイプリルフール、って、知ってますか?」
「…エイプリルフール?」
…確か、
一年で一日だけ嘘を付いて良い日、とかだったような気が、
…………
「…本当にごめんなさい…妊娠のお話は、…う、嘘、です…」
「…嘘…?」
「はい…ごめんなさい…」
……………
…よ…よかったああああああああああああああああのか!!??
何かすげー複雑!!!!
「はぁぁあああ〜〜」
「ごめんなさい!」
思わず脱力してでっかいため息を付いた俺に、呆れたのと勘違いしたのか、☆が焦ったように何度も何度もごめんなさい、と謝るので、今度は俺が慌てて☆を止めた。
「ま、軽いドッキリみたいなもんだよな」
「つい、出来心で……ごめんなさい……」
「いいっていいって!そんな謝んないでくれよ」
「…でも…」
「それに…」
…それに、改めて俺たちの将来について真剣に考えられたしさ。
さっき言おうとしてた言葉は嘘じゃないぜ。これからもずっと変わんねえ。
次はもっと雰囲気のある場所で、もっと相応しい男になってから言うからさ。
それまで待っててくれるか?
ちょっとクサいとは思ったけど、全部本当のこと。
☆をしっかり見つめながらそう言うと、☆は目を見開いて少し驚いた後、涙の溜まった目を細めて、幸せそうに笑った。