short | ナノ
ある日の夜。テラはいつものようにリビングのソファでテレビを流し見しつつ、歯磨きをしに行った同居人を待っていた。
同居人と言っても、れっきとした恋人同士なのだが。
時計を確認すると、23時丁度。
いつもならばまだ眠気は襲ってこない時間だが、今日はヴェンの特訓、任務、そして自己鍛錬というハードなスケジュールをこなしてきたので、自然と瞼が重くなっていた。
歯磨きにしては少し遅いのではないか、と微睡みはじめた意識の中で思っていると
ガシャンッ!!!
突然、大きな音が静寂を裂いた。
どうやら音は、洗面所から聞こえたらしく、テラはそれを確認した途端、音がした洗面所に急いで駆けて行った。
「どうした☆!!大丈夫か!?」
「っ…」
洗面所の扉を勢いよく開けると、☆は手前の隅にうずくまっていた。
その光景を見た途端、テラの顔色がいっそう険しくなった。
「☆、何があった」
「て、てらぁ…」
目線に合わせて屈んでやると、☆は力なくテラの腕のあたりを握った。
その小さな手は少し、
震えていた。
「いったい何が…」
「あの…あのね」
「ああ」
「…流しのとこに…っ、」
「…流し?」
テラは、☆が力なく指さした流しの中を見た。
するとそこには…
「…これは…ムカデ、か?」
「いやー!言わないで!」
「す、すまない…」
そうか、そう言えば☆はムカデやらゴキブリやらクモやら、害虫の類が好きではなかったな、とテラは思い返した。
最も、害虫が好きな人と言うのがいるのかは謎だが。
さっきの音は、ムカデを見てびっくりした☆がカップを落としてしまった音らしい。
それは金属製だから、落としたときに盛大な音が鳴ったものの、壊れてはいなかった。
とりあえず☆に怪我の心配はないらしいとテラは考え、ほっと息をついた。
「…ファイラ」
テラの指先からムカデに向かってボッと音を立てて放たれた炎の塊が消える頃には、ムカデの姿は黒くなっていた。
それを水で流し、☆の元へと戻る。
「ほら☆、もう心配はいらない。俺がさよならしてきたから、な?」
「ううー…テラだいすき」
「…ああ……」
少々複雑な気持ちではあったが、愛しい恋人に涙目で縋られ可愛いことを言われ、満更でもなかった。
すっかり腰を抜かしてしまっている☆を横抱きにし、寝室へ向かう。
真っ赤な顔で焦りはじめた☆に目もくれず、テラは害虫退治の報酬は何にしようか、と考えている真っ最中だった。