short | ナノ


「必勝法?



んなもん教えるわけねーだろーがよ!!!」




第三回戦の水の国に、大野の声が響き渡った。

期待に目を輝かせていたメンバーは、一瞬何が起きたか把握できずに動きを止めた後、大野に詰め寄る。


「は、……はぁ!?」

「どういうことだよ!」


そんなメンバーを見下したように振り払い、大野は更に言う。

「そうだなぁ…どうしても教えて欲しいってんなら、……今から僕のことを大野様って呼べ!」

「意味わかんねーよ!」

「誰が呼ぶかよ!」

「うるさい!今から僕がこの国の支配者だ!」



「っ………」


支配者。その言葉が直の頭を駆け巡った。

"世の中には、二種類の人間しかいない。
それは、支配する側の人間と、される側の人間です"


数分前、敵国のヨコヤという人物から告げられた言葉。
直にとってそれは、とても残酷な響きだった。


高らかに笑う大野、ひたすら口論する福永とヒロミ、ショックで立ち尽くす直、そして、我関せずといった態度でソファに腰掛けたままの秋山。

水の国は、まさに最悪の状況だった。





…しかしその中でひとりだけ、通常運転の少女がいた。






「はーい、おおのさまー!」





秋山の隣に大人しく座っていた少女が片手を挙げて元気に発したその言葉。

それが水の国に響いた瞬間、罵声が飛び交っていたそこは、しんと静まった。



「…☆、ちゃん?」


静寂を破ったのは、福永だった。

水の国全員が、驚いた表情で☆を見る。


「?」


当の本人は、何故自分が注目されているか解らず、首をかしげた。


「ちょ、ちょっと☆ちゃん!何素直に従ってんの!?」

「だって、おおのさま、って呼んだら、必勝法教えてくれるって言っていたから」

「いや、それはそうだけどね!君にはプライドっていうものがないの!?」

「ぷらいど?」


いかに空気の読めない発言だったかを説明する福永に、☆は始終はてなマークを飛ばすだけだった。

唖然とする福永、ヒロミ、直。
そして、横目でチラリと☆を見てから小さく溜め息をついた秋山は思った。

コイツにとって"大野様"は、たぶんあだ名か何か程度にしか受け止めていないのだろう、と。


「とにかく、おおのさま、って呼んだら、必勝法、教えてくれるんだよね!おおのさま!」

「えっ!?えっと、それは、」


まったく予想外の展開に、思考がついていかない。
実は必勝法なんてなくて、自分は敵であるはずのヨコヤと組んでいたから勝てていました、なんて言えるわけがない。


「?」


勿論、☆は大野がそんな葛藤をしているなんて露知らず。


「深一くん、わたし、何かおかしなこと言ったかな……」


何でみんな驚いた顔をしてわたしを見ているのか。
何で大野は戸惑っているのか。
☆は、今までの経験上一番頼りになる、現在隣に座っている秋山に、首をかしげて聞いてみた。


「いや?お前はそれでいいと思う」

「ほんと?」

「あぁ。」


途端ににこにこしはじめた☆の頭を軽く撫でる秋山。



「……と、とにかく!ここにいる全員から大野様って呼ばれない限り、僕は必勝法を教えないからな!」


にこにこと辺りに花を散らしはじめた☆に呆気にとられていた大野が、思い出したように叫んだ。

☆の作り出した奇妙な空気に包まれていた水の国は、またピリピリとした空気に逆戻りしてしまった。


「……深一くん、どうしてみんなおおのさま、って呼んであげないのかな?必勝法、教えてくれるのに」


口元に手を添えて、☆が秋山に耳打ちをした。


「………まぁ、アイツにはすでにチビキノコっていうあだ名があるからな。これ以上増やすとややこしくなるからだろ」

「……あ、そっか。どっちで呼んだらいいのかわからなくなっちゃうもんね」

「…そうだな」



ぱちぱち、と数回瞬きしたあと納得したように頷いた☆を見て、秋山は、やっぱりコイツはただ者ではないと確信した。

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -