short | ナノ
『ねぇ、一度でいいから、甘いもの食べてみない?』
「食べてみない。」
甘+辛=?
私の誘いに即答した、アカイト。
その拒否っぷりに、少しいじけている私。
今は夕飯後のデザートタイム。
…と言っても、私とアカイトが食べているものは別。
私が食べているものは、今日買っておいたチョコレートアイスで、アカイトが食べているものは、買いだめしてある激辛せんべい。
『一口でいいから、ほら!』
「無理無理。そんなクソ甘いモン食えるか。」
差し出したアイスを全く無視して、また淡々とおせんべいを食べているアカイト。
私はだんだんムカついてきて、思いっ切りアカイトの背中を叩いてやった。
「ゴフッ!」
『へへーんだ。』
「何なんだよ、☆!」
本気でせき込んでいるアカイトを見て、ちょっとやりすぎたかなー、なんて思ったけど。
「あのなぁ、おまえ…第一何でそんなに俺に甘いモン食わせようとすんだよ」
『えっ』
「毎日毎日懲りねぇな全く」
『だって、』
だって、
『いつも違うものって、寂しいんだもん。』
今日の夕飯は、カレーだった。
でも、私は甘口でアカイトは辛口。
昨日なんて、私が一生懸命作ったチャーハンにいーっぱい七味唐辛子入れて。あんなんじゃ味なんて分かりゃしないじゃない。
バレンタインのチョコだって、お誕生日のケーキだって、一緒に食べれない。
『…一緒に食べれないのって、寂しいんだもん…』
「………」
あーあ、言っちゃった。
人の味覚なんて人それぞれだから、私に怒る権利なんてないのに。
きっとまたアカイトは、無理、って言ってそっぽを向いておせんべいを食べ始めるんだ。
「………そんなの、」
『……っ』
「そんなの、☆が慣れりゃいい話だろ?辛いモンに」
『………はぁ?』
アカイトは当たり前のことを言うようなきょとんとした顔で、私を見ている。
…辛いものに慣れる?
『いやいや無理!そんな辛そうなの食べたら体がもたないって!!』
アカイトはそうか?なんて心底不思議そうな顔をしてたけど。
いや、でも辛いのより甘いのの方が絶対に体に良いと思うよ。
そんなことを思っていたら、突然アカイトが意地悪そうな顔でニッと笑って、私の肩を掴んできた。
「じゃ、これで慣れろ。」
『はっ!?…んんっ!!』
何をされるのかと思ったら、アカイトの顔がどんどん近づいてきていて
気付いた頃にはもう遅く、口を塞がれていた。
『はっ……な、何、いきなり!』
「一番手っ取り早いだろ?」
『えっ?…………ぇ、…ぁっ…辛っ!辛ぁっ!!』
しばらく息を整えるのに必死で呼吸を繰り返していたら、突然やってきたおせんべいの味。
と言うか、唐辛子の味。
『辛っ!!み、水取って、アカイト!!』
「だめ」
『っ!?な、何で
「水飲むと余計に辛くなるんだぜ?」
『で、でも!』
「それに、☆の泣き顔可愛いし」
『変態!!』
……それから私はアカイトに抱き締められたまま離してもらえず、口の中の辛さが収まるまで必死に耐えていた。
「…収まったか?」
『っ…最低!!死ぬかと思った!!』
涙目になっている私を楽しそうに見ながら、私の顔の前に指を3本立てた手をかかげるアカイト。
「一日三回。」
『え?』
「毎日朝飯、昼飯、夕飯の後に、これやるから」
『えええっ!?』
「死ぬなよ?」
『やだぁぁあっ!!』
それから私は毎日三回、地獄を見ることになった。
甘+辛=?
やっぱり辛い!!