※同級生高二設定


「またそんなものばっかり・・・」
「そんなものとは何だコノヤロー」


ある日の銀魂高校の昼休み。その時間、2年Z組の一角では机を挟んで対峙する二人の男女の姿があった。


二人のうち一人、ドンッと(若干薄い)胸を強く張って仁王立ちした女子生徒の名は、志村妙。そして、机を挟んだ向こう側で妙と対峙する男子生徒は、同じく2-Zの生徒である坂田銀時。


ビリビリと電撃が飛び交う幻覚が見えるほどに、強く睨み合う両者。
厳しく眉を寄せた2-Zの委員長でもある妙の様子に、ただならない気配を察した周りのクラスメイトらも一旦談笑や食事の手を止めて、なんだなんだと目を向けた。

騒がしさの引いた教室で、開かれた妙の口がスゥっと強く息を吸い込む音が響いた。


「これが昼食だなんて、どう見てもおかしいわ。バランスがメチャクチャじゃない!」


ビシィッ!
まさにそんな効果音が空耳で聞こえるぐらいに、鋭く突きつけられた妙の指。
その指先にあるのは、机の上の「イチゴ牛乳のパックとジャムパンケーキの袋」。

・・・・・・は?

予想外の展開についていけないクラスメイトたち。
しかしそんな彼らの存在などつゆ知らず、妙の反対側からは、自分の「昼飯」をオカシイモノ呼ばわりされた銀時の反論が飛んだ。


「はァア?これのどこがメチャクチャだっていうんですかー?委員長さんは。イチゴ牛乳は何とでも合う!特にパンと!これぞ最高の組み合わせだろーが!!」

「あら、坂田くんこそ何を言ってるのかしら。私が言ってるのは、食事としてのバランスがメチャクチャってことよ。誰もそんなくだらないイチゴ牛乳談義はしていません」

「くだらないとは何だ、くだらないって!お前にイチゴ牛乳の何が分かるッ!?」

「何も分からないし分かりたくもないわよ、そんな甘ったるい飲み物のことなんて!」


なんだとコラ!なによコラ!

そんな調子で、ギャーギャーと机を挟んで激しく言い合う二人。
今のやり取りを見てもらえば分かるだろうが、妙と銀時が言い争っていたのは、先程の二人の真剣な雰囲気など全く関係ない、ただの銀時の昼飯の話であった。

何だそんな話かと、クラスにいた何名かが談笑や食事に戻ろうとする。だが、妙と銀時は相変わらず大声での会話を続けるものだから、二人の会話は教室にいる生徒全員が嫌でも聞くこととなった。


「つまり!私が言いたいことはね、せめて昼ご飯ぐらいは、ちゃんとしたものを食べなさいってことよ」

「せめてって、何だよ。せめてって」

「だって坂田くん、いつも朝ご飯抜いてるでしょう」

「・・・・・・委員長ってエスパーでしたっけ?」

「超能力なんてなくてもわかるわよ。いつも朝のSHR直前に遅刻ギリギリに教室に飛び込んでくる誰かさんが嫌でも目に入るからね」


毎朝寝坊して朝飯を食べていないことを指摘され、図星とばかりに顔を引き攣らせる銀時。その反応を見た妙は、ハァとわざとらしい大きな溜息をつく。


「大体、朝ごはんを食べないことからしてダメよ。いい?よく聞いて坂田くん。朝ごはんを抜くと頭は回転しないの。坂田くんのクルクルパーの頭なら尚更ね」

「オイコラ、なんだクルクルパーって。脳か?脳みその方を言ってんのか?それとも天パの方を言ってんのかコノヤロー」

「坂田くんの成績がいつまでもレッドラインまっしぐらなのは、たぶんこれが原因だと私は思うのよ」

「オーイ無視か、無視ですか委員長。ていうか何気に俺の成績が悪いって言ってるよね。さっきから地味に俺のHPを削ってきてるよな、意図的かコラ」


ピクピクとこめかみを震わせる銀時。今にもキレかかりそうな雰囲気を放つ銀時だったが、「だからね、坂田くん」という台詞と共に突如突きつけられた妙の人差し指に、反論するタイミングを失った。

単に指を突きつけられただけなら、銀時はまだ口を閉じなかっただろう。だが妙がとった行動はそれだけではなかった。銀時の前には、今の会話の流れからは絶対にありえない、ニッコリとした「微笑み」を見せる妙の顔。


「そんな栄養が足りていない坂田くんに、今日は朗報があります」

「・・・はいぃ?朗報ぉ?」


眉を寄せて妙の台詞を反復する銀時に「ちょっと待っててね」と言葉を残し、妙はゴソゴソと自分の鞄を漁り始める。

その妙の姿を見ていた銀時とクラスメイトたちは、会話の流れが奇妙な方向へと動いているのを感じた。そしてなぜか感じる、嫌な予感というか言い知れぬ恐怖。

そして、次の瞬間。この何処からともなく感じる恐怖は、本能から発せられたものだったことに彼らは気付くのだった。


「じゃーん!」と妙の可愛らしい掛け声と共に現れたのは、これまた可愛らしい桃色の袋に包まれた、小さな弁当。


それが机の上に置かれると同時に、銀時及び周りのクラスメイトたちの背景にはベタフラが飛び、顔色は弁当を包む袋の桃色とは正反対の真っ青へと染まった。それはまるで、この地上に悪魔が降臨なされたかの如く、もしくは世界の終わりを見るかのように、妙以外の全員の表情が停止した。

脂汗を額に浮かべた銀時が「えーとぉ・・・」と恐る恐る口を開く。


「・・・・・・コレは、何でしょうか。委員長」

「私の手作りのお弁当よ」

「・・・・・・さっき委員長、何とおっしゃいましたっけ」

「栄養が足りていない坂田くんに今日は朗報があります、だったかしら」

「いやいやいや!これのどこが朗報ォォオオッ!?死の宣告の間違いだろーがァァッ!・・・ッぐふぅッ!」

「どういう意味よソレ、殴ってもいいかしら坂田くん?」

「もう殴ってんじゃねーか!」


いってェと愚痴りながら鼻頭を押さえる銀時を尻目に、「食べてみないとわからないでしょう」と口を尖らせた妙が勝手に弁当を袋から出し始める。「結構練習したんだからね」の言葉に一瞬希望を見た銀時だったが、パカッと開かれた中にあったのは、やっぱりいつも通りの真っ黒なソレで。
教室の気温がさらにマイナス2された気がした。


「さあ、どうぞ」

「いやいや、どうぞと言われても無理!絶対無理だから!自分から死にに行くほど俺は馬鹿じゃねェから!」

「なっ・・・!!
・・・・・・いいから、食べてみてよ」


・・・・・・あれ?


ふと、銀時以外の教室にいるクラスメイトたちは、今の妙の反応に違和感を覚えた。

今のような場合、いつもの妙ならば「いいからさっさと食わんかい天パァァッ!」などと強行手段(無理矢理食わせる)を取るはずではないのか。だが今はただ、言葉のみで銀時に咀嚼を勧めるだけである。

そして結局、いつまで経っても銀時が弁当に手を伸ばすことはなく、しばらくして折れたのは妙の方だった。


「・・・そこまで嫌がるなら、食べなくてもいいわよ。・・・これは剣道部の人たちへの差し入れにするから」


やっぱりどこか様子がおかしい妙は、顔を曇らせたまま「新ちゃんや土方くんにあげてくる」とそう呟き、やや早足でその場を後にしようとした。

だがそのときだ。妙の呟きの「土方くん」のあたりで、ピクリと銀髪が動いたのは。


「ま、・・・待て、委員長」


銀時が動いた。

今までの展開を見ていたクラスメイトたちが思わず「あ」と声を上げると同時に、銀時の声に呼び止められた妙が振り返る。
むっとした表情が、銀時を睨むように見上げた。


「・・・・・・なによ、坂田くん」

「よこせ、それ」

「え・・・?」

「気が変わった。その弁当、やっぱり食べるわ」


銀時の言葉に、ビックリした様子で丸々と黒目を見開かせる妙。それとは反対にクラスメイトたちは、隠れて「あーあー」と銀時に対して同情と呆れを込めた声を上げるのだった。


どうして銀時が突然弁当を食べると言い出したのか、彼らには容易に理解できる。それは別に、本当に銀時の気が変わったわけでもなく、新八や土方をテロから助けるためでもない。単純な、本当に馬鹿馬鹿しい理由だった。

たぶんその理由をわかっていないのは、銀時の前でキョトンとした表情を浮かべる妙ぐらいだろう。


「さっきまで、あんなに食べないって言ってたのに」

「だから気が変わったんだってば。ほら、いいからさっさとよこせ」

「上から目線な人にはあげたくありません」

「・・・ぜひ食べさせてください」


まるで自分から死を乞うような発言だった。汗をダラダラ流しながら銀時がそう懇願すると、一瞬の間のあと、妙の顔がわずかに微笑んだ。
その笑顔は超絶的に可愛いことは誰もが認めるだろうが、その笑顔で「はい」と銀時に差し出された暗黒物質には一片の可愛さもない。強いて言うなら、悲愴度100%である。


「い、・・・いただきまーす」


しかし銀時も、食べると言ったのだから今更後には引けない。
箸を持ったまましばらく躊躇していた銀時であったが、ええいままよ!と周りのクラスメイトたちが合掌する中、銀時は真っ黒なそれが乗せられた箸を勢いよく口へ運んだ。咄嗟に、何名かの生徒が銀時を保健室運ぶ行くために席を立ったのは言うまでもない。


・・・・・・だが。


事態は思わぬ方向へ進んだ。


アレ?と銀時の間の抜けた声が教室内に響いた。


「あれ・・・・・・・美味い?」

「どうして疑問系なのよ。素直に美味しいって言いなさいよ」


箸を咥えたまま、不思議そうに目の前の暗黒物質を眺める銀時。
その姿に驚きを隠せないクラスメイトたち。そして彼らをさらに驚かせたのは、パクパクと銀時がお馴染みの黒い物質を口に運び続ける光景。


「見た目はどうあれ・・・。やっぱり本当に美味いんだけど」

「一言余計よ、一言。・・・だから頑張ったって言ってるでしょ。特訓したんだから」


そう言い張る妙であったが事実、妙のつくる料理はクラス全員いや学年全員が知る凄まじい殺傷力を持っていた。その殺傷力を取り除くのに、一体どのくらいの時間、妙は料理の特訓をしたのだろうか。それは皆の疑問であり、銀時の疑問でもあった。


「そもそも、なんでそんなに練習する必要があったんだよ?弁当なら、いつもお前の弟がつくってんのに」

「そんなの、坂田くんにあげるために決まってるじゃない」



「・・・・・・・え?」

「・・・・・・・あっ、あれ?」



坂田くんにあげるため。

そう、妙は言った。たしかに言った。絶対言った。教室が今度は別の意味で、本日二度目の停止を迎えた。


ポカンと口を半分開けたまま、箸を運ぶ手を止めた銀時が妙を見やると、みるみるうちに薔薇色に染まっていく妙の顔。


「・・・なァ、今のどういう意味?」

「・・・っち、違うわよ!これは、アレなの!さ、さっきも言ったとおり、坂田くんの健康のためにっていうか・・・っ!」


どう聞いても言い訳にしか聞こえないそれ。しかも噛み噛みで言いながら、両手を回して焦りを隠せない妙。

しかしそんな妙を見ていた銀時の方も、「・・・お、おぉ。・・・そ、そうか」と無理に追求せず納得してしまうんだから、二人を見ていたクラスメイトたちはたまったもんじゃなかった。

周囲から「もっと素直になりなさいよ志村さん!」「もっと積極的にいけよ坂田コノヤローが!」・・・などと「心」の声が飛ぶ、そんな中で。


キーンコーン、と昼休み終了の合図を告げるチャイムが鳴る。それによって、クラスメイトたちは「ハッ」と我に返ることになる。


思えば30分間、銀時たち以外の2-Zの面々は、二人の話を聞くことで時間を潰してしまっていた。
まだ昼飯を食べ終わっていない生徒たちから「どうしてくれる」という怒りの声が上がりそうになるが、いまだに赤面して見つめ合ったままの二人に、「俺(私)たちの昼休みを返せ」なんて、誰も言えやしなかった。




【2年Z組の恋愛模様】



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