*死ねた注意








しとしとと雪が降るなか、愛する人と二人で公園のベンチに座っていた。雪が落ちる音が聞こえるくらいの静けさのなかをゆっくりと時間が流れていく。
枯れ果てた街は、二人だけの小さな世界に白く染まる。

ふわり落ちた雪が溶けて黒いスーツに染みを作っていった。つめたい。こうして冷たさを感じられるのも貴方が暖かさを教えてくれたからだと、濡れる肩にすらただただ愛しさを感じた。 
貴方に積もる雪を優しく払う。
穏やかに目を閉じた貴方がありがとう、と言った。どういたしまして。私と比べものにならない程に冷えた貴方を抱きしめる。
喋れない私の声が貴方に聞こえたように、私にも貴方の声が聞こえる。しあわせだ。しあわせだった。


胸のあたりに温もりを感じながら、瓦礫に埋もれた街を見渡す。

この公園には横倒しになったまま放置されていた自販機があった。むこうの空には飛び降り自殺の有名スポットと言われた廃ビルの一角があった。あの角を曲がれば青色の制服に身を包んだ悩める若者達が通う学校があった。そこから反対に歩くと変わった趣味の友人達が頻繁に通うアニメショップがあった。そのすぐ傍に私が毎日バイクを走らせていた道路が、あった。

いまは、どれも。

その形すら思い出せないけれど。
けして平穏とは言えなかった日々が柔らかな思い出として、私の中に深く根付いている。

貴方を失ったあの日から、瞳も無いのに得られる視覚は私に白と黒のふたつの色しか教えてくれなくなったけれど、私にはそれだけあれば十分だった。
あなたと、わたし。
それ以外のものは何もいらない。



『そろそろ眠ってもいいかもしれないな』


貴方が死んだあとずっとこの街を見守ってきた。とてもこの場所を離れる気にはなれなかった。
友人達が一人ずつ居なくなるくのを見送り、最期に誰もいなくなっても、私は満足していた。

今日ここに来たのも、最初からこうなる事を望んでいたからなのかもしれなかった。

愛する街と死ねるのだ。白い空と白い景色に包まれて、ゆらりゆらり、終わる世界の心地はとても良い。


『おやすみ、新羅。』

『おやすみ、セルティ。』


刈り取った時と寸分違わず綺麗なままの新羅の首に、最初で最後の私の恋人に、今なら口づけできる気がした。


(彼が知らない世界の終わり)
(しあわせな孀は聖夜に眠る)


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