あなた。私が知っているあなた。強くて、優しくて、誰よりもうつくしい人。
とても嬉しそうに刃を振るう。けれど人の心を傷付ける事を好まないあなた。


おまえは大胆に間合いに入る。傷付くことを恐れない。
ただの腕慣らしで怪我をされては困る。頭から突っ込んでくるものだから、こちらはいつはいつも気が気で無い。顔に傷が残ったりしたらどうするのだと、次の機会に言ってみよう。


愚問だ。騎士の傷は戦いの証。誇りはすれども恐れはしない。
それでも、と珍しく食い下がるので、あなたが貰ってくれたのだからいいでしょう?と笑うと、突然抱きしめるものだから、私にはあなたがよくわからない。


おまえは気高くて、強くて、それなのに可愛すぎる。あんなの不意打ちだ。真っ赤に染まった顔を見られなくてよかった。
とっくに動くのをやめた筈の心の臓が、五月蝿い。


あなたは好き嫌いが少ないようだ。私が焦がしたハンバーグすら美味しいと言って完食するから、もしかしたら味オンチなのかもしれない。
豪快な料理が得意。なんなら素材を狩りに行くところから始める。魚なら綺麗に捌くし、肉なら皮を剥いで丸焼きにする。
焼き立てのピザは最高に美味しい。厚く切られたハムと、よく熟れたトマトがたっぷり乗っている。溶けたチーズはじゅうじゅう言っていてよく伸びる。たまらない。
あと、焼きそば。祭の売店で買うのも良いけれど、彼の味付けと焼き加減は絶妙なのだ。
今度作り方を教わってみようか。・・・・・・(省略されました)


何でも美味しそうに食べるので、こちらも作り応えがあるというものだ。
何を出しても幸せそうにすべて平らげるので意地になってあれもこれもと作ってみたが、
食費がかさむだけなのでやめた。
彼女のハンバーグを食べた次の日に腹を下した事は、俺が墓場まで持っていく。



朝はどうだ。


平日の朝は大抵私より先に起きて朝食を作っている。
私はこんがりとしたトーストの匂いと、目玉焼きを焼く音で目を覚ます。


朝日を浴びる寝顔を眺める瞬間が好きだ。誰にも邪魔されず、おまえの顔を存分に独り占めできるから。こんな事を言ったらおまえは怒るだろうから、言わない。

彼は休日は寝起きがあまり良くない。ただでさえ癖のある髪の毛が好き勝手に飛び跳ねていて、輝く顔が台無しだ。昨夜の不健全な健康さはどうした。・・・・・・それについて、特筆する事は無い。
「隙を突くとしたら、今だろうな。槍兵」
ぼやぼやしながら起き上がってくるあなたにそう言うとぽかんとした後笑って、今お前に討たれるなら本望だと云う。
冗談にならないから、やめて欲しい。


ベッドの中での彼女の姿について記しておこうかと思う。
(ページが破かれていて読み取れない)


キスは額や頭にする事が多い。
どうしてですかと聞いたら、かがむのが大変なんだと言われた。心外だ。
言ってくれれば背伸びして待つのに。そう言うとあなたは肩を震わせて笑った。何がおかしいというのです!
今度アイリスフィールに相談して、ハイヒールというものを試してみましょう。


ある日、仕事から帰ると、妙に背の高いお前がいた。よく見ると家の中で靴を履いている。
「どうだ、あなたに顔が近い!」
なにやら誇らしげだが、それはほとんどつま先立ちと同じではないのか。
ぷるぷると震える足首をつつくと足元から綺麗に崩れ落ちていくおまえを今、誰がブリテンの王だと思うだろうか。



ディルムッド。私のディルムッド。
今でも昨日の事のように覚えている。輝く夜景に、大きな花束に、翡翠の指輪を私にくれた日のこと。
私が何より嬉しかったのは「結婚しよう」という短い言葉だ。
気障なせりふは平気で言うのに、その言葉だけは珍しく待たされた。
赤くなったり青くなったりするディルムッドを待ち構えている、私の心臓もまた爆発寸前で。
はい、と。たった一言返事するのにも声が震えて、何もかも精一杯だった。溢れてしまいそうだった。

人はしあわせで死ねるんじゃないかって、本気でそう思ったのです。


アルトリア。俺だけの、アルトリア。
白い、白いドレスに包まれて幸せそうに笑うアルトリア。
その美しさに俺は息を呑んだ。言葉を失うほかなかった。どんな女神も妖精も、彼女には敵わないだろう。
なあ、誰にも見せずに連れ出しても構わないか?
そう言うと目に浮かべた真珠の涙を純白のヴェールで隠して、頬を朱に染めて笑うのだ。
「私はだれよりもしあわせだ」なんて。それは俺の台詞なのに。


物騒な神父のいる教会も、
今だけは神聖な場所だと認めてしまえ。

祝福の鐘が鳴る。
客人たちは好き勝手騒いでいるけれど、笑顔で見送ってくれている。

癒えない傷の代わりにあるのはプラチナに輝く光の輪。
永遠を誓う口付けは、そっとやさしく。囁くように。
目が合って、耐え切れず華奢な体躯を抱き上げた。
しあわせだ。しあわせだ。しあわせだ。


わたしたちの愛は、ここから始まった。



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