※転生もの
※死後の世界

オリジナル色が強いです






目を覚ますと、そこには何とも奇妙な光景が広がっていた。

目の前にはアスファルトの道路が続き、その先の線路では踏み切りが音を鳴らし、遠くを見渡せば煙突が煙を吐き出している。空は高く澄んでいて、家や店は全て大小の煉瓦で作られていた。
まばらながらに人も居て、それだけ見れば活発で賑やかな光景だった。

けれど、それらには色が無かった。

冷たい灰色に包まれた世界だった。


『いらっしゃいませ。初めまして、お久しぶり』


ふわ、と優しい声が響いた。
隣を見ると真白の髪をした女性が柔らかに俺に笑いかけている。


『ここは魂の至る場所。ここを天国と呼ぶ人も居れば、地獄と呼ぶ人も居るでしょう』


まわりには彼女と全く同じ容姿をした女性がたくさんいて、彼女と全く同じ声で、同じ言葉を他の誰かに向けて囁いていた。

つまり、俺は死んだのだ。
死んだ理由も、迫り来る死の感触も、手に取るように覚えている。そしてまわりで白い女性の話を聞いている人達も、後から後から突然現れる呆けた顔の人達も、向かいの道路を歩く人達も、みんなみんな死んだのだろう。
死に際の事を考えると、どうしてこれ程までに自分が静かで居られるのか不思議だった。

俺のように割り切った顔をしている者もいれば、納得出来ないと叫んでどこかに連れていかれる者もいた。
黒い神父が長い武器で串刺しにして、狂った死者を連れていくのだ。もし狂ったままだったなら俺はあの刃の餌食になったのか。
その様子に気を取られる俺に、『あの人は殺しに長けていて、殺さない事にも長けているの。あれに刺されるのは確かにものすごく痛いけれど、それだけよ』と女性が言った。どこに連れていかれるのかは、教えてくれなかった。


『あちらに見えるのが、生まれ変わりのエレベーターになります。二人乗りですから、二人で乗りたい人を見付けてお乗り下さい』

『タイムリミットは一週間』

『エレベーターの中でキスをした二人は来世で運命の人となります』

『もちろん、同性でも、子供でも老人でも、いっそ動物でも構いません。あなたがそれを望むのならね』


そう言うと女性は悪戯っぽく笑った。


『七日経つか死ぬほどの傷を受けるとゲームオーバーよ。あなたの魂は輪廻から外れて消滅してしまいますから、気をつけて』


そこからが大変だった。


この世界には生前の能力やスキルは全て持ち越しされているようなのだ。(武器を具現化する事は出来ないらしかったが、あの愛槍達を見る気にもなれないから、それを悔やむ気持ちは無かった)
当然この顔の忌まわしい呪いも持ち越しされて、女性という女性が俺を生まれ変わりのエレベーターに誘って来るのだった。

俺はそんなふうに決められる運命なんて御免だった。運命の人がこれで決まると言うなら自分は生前の妻とここで既に口づけを交わしていたのだろうか。いや、彼女を愛する道は俺が選び、俺が勝ち取った誇るべき道だ。それが生まれる前から定められた運命だったなどと、信じたくは無い。

女性達の願いを黙々と断り続けて時を過ごした。彼女達の為とは思いつつ、懇願する顔を跳ね退けるのは辛かった。その目にはずっと弱いのだ。もう、断るのも限界かもしれなかった。ここには食べ物も娯楽もあるが、そのどれもが味気無かった。賑やかに見えた街は、男女が逢引をしてその相性を確かめる為だけのものだった。そうして七日目の朝になった。


「どうか私と乗ってください」

「いいえ、私とよ」

「あなた以外考えられないの」

「必ず貴方を幸せにするわ!」

「すまないが、俺は─……」


生まれ変わっても呪いに悩まされるような人生なら、いっその事ここで消えてしまった方がいいのかもしれない。その方が惑わされる女性達だって幸せになれるだろう。俺では彼女達を幸せには出来ない。

何もかもがどうでも良くなって、道路に現れた車の前に足を踏み出していた。

大きな大きな霊柩車だった。
ふと、黒い神父に連れ去られた者達の行く先がわかりそうな気がしたが、考えるのを止めた。この世界の単調な色はきっと、遅かれ早かれ死者を狂わせる。
一歩、また一歩。広い道路の真ん中で立ち止まる。車は止まらない。止まれない。ああ、運転手があまり大きな怪我をしなければ良いのだが、いや、運転手などいないのか───……


そして目に飛び込んで来たのは、
霊柩車の全てを塗り潰すような黒ではなく、

目の覚めるような青と眩いばかりの黄金色。

色とはこんなにも愛しく尊いものだったか。

その鮮やかな光景を目に焼き付けて、俺は静かに瞼を閉じた。


どん、と衝撃が腹のあたりに伝わった。大型車にぶち当たった感触にしてはあまりにも小さすぎる。
おそるおそる目を開けると、俺の体に固くしがみ付く小柄な姿があった。


「っ、あなたは……!」

・・・・・・ああ、その声を聴くのは久しいな。


「あなたは馬鹿なのですか、ランサー!」

「セイバー……」


仰向けに倒れた俺の上に、必死な顔で跨がっているセイバーが居た。ああ、俺の一番の好敵手よ。とても会いたかった。

気付けば退屈な世界は、すべてが色鮮やかにこの目に映えていた。空は青かったけれど、空よりセイバーのドレスの方がもっと青かった。 日差しを受けてきらめく金髪が、うっすらと上気した頬の赤みが、俺の名を呼ぶ唇の桃色が、彼女の全てが、俺の濁った目に光を与え、再び色を与えたのだ。


「おまえは、何故こんなところに」


その問いには答えず、セイバーは立ち上がって先程俺に言い寄ってきた女性達に言い放った。


「そこの婦人方、よく聞くがいい。この人は私の大切な人。私よりこの人の幸せを願う者が居ると言うなら、さあ、出て来て貰おうか!」


女性達は口篭もり、すぐにその場を去っていく。
その威圧感と言ったらさすがであった。
あのひと時の夢でこの身を滾らせた、鎧と剣が見えた気すらした。





(エンドマーク・エンドロール・ノンリセット)






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