*SN未プレイなので間違いがあったらすみません
第五次聖杯戦争。 英霊の座に居た私は新たな主に呼び寄せられ、 かつて戦った地へと再び現界した。
ふわり、きらり。 あたりに輝きを散らすエーテルと共に現世に姿を現しながら、 暖かいようなくすぐったいような懐かしさを感じていた。
この場所は知っている。 この空気は知っている。
まるでつい先程の事のように、第四次聖杯戦争に召喚された時の記憶が蘇る。白雪のように儚げで美しく、それでいて強い女性と共にこの場所で交わした会話の数々。あの時の魔方陣が、魔力が、私をここに存在させる。
私を呼び出したらしい少年は腰を抜かして座り込んでいた。二言三言声をかけたが、私の問い掛けに答える様子は無い。指示は、まだない。本来ならもう一度問い直すべきだったのだが、今は頼りないそのマスターよりも格段に気になる事があった。
先ほど、召喚されて咄嗟に槍を打ち払った時の、あの気配。 一瞬のことであったから姿までは窺えなかったが、あれはランサーのクラスのサーヴァントで間違いないだろう。
・・・・・・もし。もしもの話だ。 第四次聖杯戦争に召喚されたこの身が、今再びこの冬木の街に呼び出されたと言うのなら。一度ならず二度までも、ひとりの英霊がこの戦争に参加する事が許されるのなら。 もし奇跡が起こるなら、と。 藁にも縋る思いでその気配を辿る。
もしもまたあの人に会えたなら。私がここにセイバーとして在るように、彼もまたランサーのクラスを得たならば。 あの時信頼し、背中を預けた誇り高きサーヴァントと再び言葉を交わせたなら。
誰よりも彼の英霊ディルムッド・オディナと、果たしたい約束があったのだ。
アイリスフィールと初めて訪れた時の懐かしさを噛み締め、 月日が経ってもあの時の思い出を潜めたままの土蔵を飛び出す。
家屋と家屋の間。暗く閉鎖的な土蔵の中よりも格段と開けた場所。
そこに槍兵はいた。
防御力を兼ね備えない、ただ敵より早く鋭く戦うためだけに特化されたケルトの戦闘着。鈍く月光を跳ね返し怪しく光る長い槍。強く力の篭もった瞳、不敵に笑む唇。好戦的な雰囲気は見る物に緊張感をもたらす。
希望を信じてしまったから絶望に嘆くのだと誰かが言った。 容姿も、放つ空気も、魔力も似ているのに。
・・・違う。 彼では無い。
手にするのは魔を断つ赤槍でも無ければ呪いの黄槍でも無く。鼓膜を震わせるのはかつてこの耳をくすぐった甘い声では無い。決定的なのは、右目の下に涙粒のようにあった乙女を惑わす泣き黒子も無い事だ。
たとえどんなに似ていても見間違えようは無かった。 その姿を確認した瞬間、揺るぎ無い事実が胸に染み渡っていった。
…――そうか、違うのか。 あの人にはもう二度と会えないのか、と。
そう認識した瞬間高ぶっていた心が熱を失っていくのがわかる。
自分でも驚くぐらいの変化だったが、良く良く考えれば敵と戦うのに余計な情など必要無い。むしろ好都合だ。主が為の戦争に過去の私情を持ち込むなど、私はきっとどうかしていたのだ。 ただ冷静に、ただ機械的に。"ランサー"の英霊を攻撃した。
・・・・・・目を見て一言謝って。知らなかったのだと、言い訳したかった。許して貰えなくていい。憎まれたままでいい。それでもただもう一度剣を交えたいと、彼の呪われた命を救いたいと。望むのはそれだけなのに。
そんな思いも、槍兵の斬撃を避けようと集中した次の瞬間には忘れていたのだった。 彼との打ち合いと交わした言葉ひとつひとつ、跡形も無く消えた左腕の疼き。澄み渡っている思い出すべてを、無用なものと胸の奥に押し込めて、私は聖剣を振り被った。
(さよなら愛した人)
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