寒風の吹く帰り道。先ほどコンビニに寄って、セイバーは肉まんを、俺は缶コーヒーを買ったばかりだった。
白い息を吐きながら、同じ学校帰りの学生だらけの電車を降りる。

「寒いですね」
「ああ」

セイバーが出来立ての肉まんを頬張りつつそんな事を言った。
もぐもぐと、小さな口を一杯にして喋るその姿に思わず笑みが零れてしまう。

小さな幼馴染は寒さのせいか頬を薄く染めていた。

「手を、」

こつり。

彼女の声を皮切りに、どちらからでもなく同時にお互いがお互いを目指して。
手と手がぶつかって、離れて、やがて不器用に握られる。

「暖かい」
「ああ、暖かいな」

薄茶色のカーディガンに半分程隠されたセイバーの右手と、固く骨ばった俺の左手が仲良く繋がれた。
ふわりと陽だまりのように優しい暖かさが左手を包み込む。
俺は思わず空いた右手で顔を押さえた。

「どうしました?」
「何でもない」

まるで恋人同士のようだから。
なんて、言える訳もなく。

鈍感で純粋なこの幼馴染みはそんな事気にも止めていないのだろうな。
周りの目。流れる噂。それらを屁ともしない彼女。恐らく気付いてすらいないのだろう。
俺一人で顔を赤くしてばかみたいだ。繋いだ手が熱くなってしまう。

なんとか頭を冷やして隣を見る。不思議そうに首を傾げるセイバーは自分の魅力を理解していない。高鳴る心蔵を無理矢理に押さえ付けた。

期待してはいけない。高望みはいけない。俺達はこのまま、隣に立てればそれでいいんだ。それだけで十分にしあわせなのだから。

「そういえば、今日の晩御飯はシチューだとアイリが言っていた。貴方も一緒にどうですか?」
「食卓を共にしていいならそれは有り難いな」

断じて自分の家族が嫌いなどと言う訳ではないが、重苦しい雰囲気の漂うあの家での食事は気が進むものではなかったから。
それに何よりセイバーの家の団欒は俺に癒しを与えてくれるし、
彼女の養母のアイリスフィールが作る料理は絶品だった。

「ならば、決まりですね!」

セイバーが嬉しそうに手をぶんぶんと振る。繋いだ手が引っ張られて、前に後ろにゆらゆら揺れた。
…素直で分かりやすいのは小さな頃から変わらないな。俺はずっと近くで彼女を見てきたのだ。明日も明後日も、来年も再来年も。この先ずっとこのままの関係が続けばいい。

そんな事は不可能だと知りながら、いつか離れて行くであろう手の暖かさを噛み締める。

「………て」
「ん?何か言ったか?」
「い、いや!何でも無いんだ!」
「そうか?」

何か聞こえた気がしたが気のせいだっただろうか。
それにしては彼女のこの慌てっぷりは何だろうとは思ったが、先ほどの自分の行動を顧みては何も言えなくなる。どうかしているのは俺の方なんだ。

それからアルトリアは黙ってしまったが、機嫌を悪くしているわけでも無いのだろう。握る手は未だ微かに揺れている。

居心地の良い沈黙に包まれながら、とぼとぼと二人で帰路を歩いた。

「楽しみだな、シチュー」
「ええ。」

たまに、他愛も無い言葉をぽつり、ぽつりと交わす。
気の置けない彼女と二人で居るこの時間が大切で、大好きだった。




「はやく気付いて」





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