眠る陽鞠に口付けてしまった事は、一度や二度では無く多々あった。陽鞠が発作を起こした日は決まっていつも、陽鞠の寝室に向かうから。 そしてキスする度に陽鞠への愛おしさと安堵を覚えた。少なくともこうしている間だけは、陽鞠はここにいる。触れる唇を離さなければ、絡めた指を解かなければ、ふわふわと漂う陽鞠の儚さと柔らかさはぜんぶ俺のものだった。
…永遠に陽毬が目を覚まさなければ、ずっとこうしていられるのにな。
ふいにそんな事を思ってしまい自分に愕然とするけれど、それでも唇と唇は糊付けされたように離れない。 なんて我が儘な兄だろう。
今、目を覚ましたなら陽毬はその大きな瞳で訴えるだろう。やめて、離して、触らないで、怖い。そんな嫌悪が綺麗な君から放たれたら君のために生きている俺はもう生きていられない。 けれど俺が死んだら陽鞠とあいつは、俺の可愛い妹弟達は、取り残されてしまう。理不尽な運命で輪っているこの世界に二人きり。誰も二人を助けてくれやしないのだ。
陽鞠に気付かれる前に離れなくてはと思うのに、いけないと分かっているのに、ぐるぐると輪る思いと唇の感触が邪魔をして、
だから… だから、これで最後なんだ。
今日も冠ちゃんはそう思いながら私にキスをするのでしょう。ほら、ふかふかのベッドでお姫様みたいに眠る私に大きな影が落ちて、そして。 こっそり薄く目を開けてみれば、苦しそうな顔が離れていくのが見えた。
そんな顔をしないで。 大丈夫だよと撫でてあげたい、だいすきだよと抱き着きたい。
「ごめんな、陽鞠」
でも冠ちゃんは一言謝って、泣き出しそうな顔で帰っていく。だから私は目を閉じたまま静かに彼を見送るの。
このまま安らかに眠ってしまおう。そしたらきっと夢の中で冠ちゃんにまた会えるだろうから。 私はきらきらと現れてなんだかよくわからないことを言って、晶ちゃんがひゅるひゅるといなくなって。 そこでも冠ちゃんは苦しそうな顔をして私の名前を呼ぶけれど、見つめ合ってキスが出来る。華やかな世界で二人、愛し合える。そんな夢。
わたしのだいすきとあなたのだいすきは悲しいくらい同じだからね。
おはよう、その言葉で目が覚めるまでの、二人の秘密の逢瀬が始まる。
スターナイトダイビング
(おやすみ兄妹)
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