剣槍剣 (0)
0914 00:22



欲しいものがある。アルトリアという一人の少女の小さな我が儘、生まれてはじめて抱いた欲望。けれどそれはどうしたって手に入らないから、私はぶくぶくと沈んでいく。暗くて深い水槽。酸素が足りない。窒息死。そう、わたしは愛が欲しい。彼の愛が欲しい。
不意にキスしたあとの吐息も、あの日彼が吐いた呪いの言葉も、わたしは胸いっぱいに吸って生きている。与えられた僅かな唾液は確かにこの体を形作る一つなのだ。慟哭と共に浴びた血液だって皮膚からじわりじわり浸透して、わたしの血液に混じり合っているにちがいない。そうやって考えるとわたしは、彼の遺物なのだろう。
この身ひとつで、魔法陣を書いて閉じよと五回唱えたらきっと彼を呼び出せる。赤い燐光の中で彼の呪詛をからだいっぱいに浴びながら、彼の最期を彩った赤槍に貫かれて逝くのだ。ああ、ああ、それが叶うなら、どんなに。強く希いながら眠った夜は、まるで星の数だった。ただ彼を待って幾星霜を越えた事か。

どうにも救えない、くだらない考えを巡らせながらまた一人敵を討つ。
機械のように振り下ろした剣を素早く払いのけた刃先が、満天に高音を響かせた。


(与えられたから読んでいる。
神話の舞台をかたどったこの場所は美しくて、あまりにも退屈である。世界を揺るがす戦争だとか危機だとかを繰り返しているうちに正常な人間の感覚などなくなった。そしたらぽいと放り投げられた記録があったから、何の気無しに開いてみる。
何から何まで美しい、と心から思える女性を見たのは初めての事だった。この顔は彼女にとって何ら特別な意味を持たないようだ。

運命なのではないかと思う。

読みかけのそれを放り投げて、弾む足で先輩にちょっと出かけて来ますと言った。放り投げたコピーの記憶は愛槍が空に消え行くところで放棄された。
二度と読み返す事は出来ないが、まあいいだろう。)




響き渡る音は鋭く澄んでいて、
あの数日で奏でた記憶を、
呼び、覚ます。


「この一番こそ悲願であった」


世界が、色を、変えた。


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