白黒槍剣 (0)
0914 00:21



わたしが貴方に出来る事はなんだろう。いちばん最後の記憶の、いちばん悲しい姿で、崩れ落ちるように棘を奮う貴方に。
闇の色と死の色。その二つを纏って鬼のように笑っている。……子供のように、泣いている。

「セイバー、」
「はい、ランサー」
「死にたいのか」
「いいえ」

武器を捨てた。そうすると手が出せなくなるのは、貴方がまだ貴方である事の証だろう。
一歩また一歩と慎重に歩んで行く。こつこつとヒールが鳴る。この惨状であるのにわたしはまだ純白を保ったままだ。

「もう泣かないで。苦しまないで。どうかその毒を、わたしにください」

白百合の花がぽきり、おちた。

そっと唇を重ね合わせた。たまらなく苦い味がした。貴方を汚すものの味だった。

「……ん、」

わたしは泥を吸い出していた。彼の中に巣喰う、脈打つ泥を。どろりとした液体を少しずつ嚥下するたびに、真っ黒だった貴方の武装が淡く薄くなってゆく。最後まで吸い切らねばならないからと霞む視界で見送った。

わたしの色をあなたにあげる。
何物にも染まっていない色にして、そしたらまた翡翠に浸けるのだ。

(もう、あなたと揃いの瞳では無くなってしまったけれど。)

まず髪が色素を失った。リボンがはらはらと夜の闇に消えた。漆黒に飲まれたドレスはその清らかな花の形を保てなくなり無粋な鎧へと姿を変える。そして全てを吸い出して、開いた瞳は月光の輝きに満ちていた。

飲み下すたびに痛みがあった。苦しみがあった。嘆きが、絶望が、慟哭が、懇願が、苦痛が孤独が殺意が戦禍が痛い痛い痛い痛い痛い痛い助けて助けて誰か誰か誰か────

そのどれもを押し退けて。
ただ、伝えたい事があった。
私を支える言葉があった。

「わたしも」
「なに、を、セイバー……っ!」
「わたしも、貴方と出会えて良かった」

馬鹿な事を、と落とした涙は。
一抹の汚れも無く貴方の頬を滑り落ちた。



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