槍剣 (
0)0504 23:32
あなたがいなくなって、
こころの隙間を埋めるように食べた。
涙のかわりに浴びるように飲んだ。
あなた以外のみんなですごした、うすぼけた色の夜。
カーテンから差し込む朝の日差しが眩しい。
朗らかな小鳥の歌声を聞きながら私は目を覚ました。
「おはようございます」
もぞもぞと寝起きの身体を動かすと洗濯したてのシーツからは洗剤の香りがする。
顔を上げて手を伸ばすとそこに彼が眠っているのが、私達の日常だった。
「……ディルムッド?」
今日も、明日も、その日常が続く筈だった。
ディルムッドがいなくなった。
最初は、士郎も凛も慌てて彼を見付けだそうとしてくれたものの。
マスターもいない。誰とパスが繋がっているわけでもない。セイバーの旧知だから、という理由だけで拾われ衛宮邸に居候していた、クラス名も与えられていないサーヴァント。どうしてそこに存在しているのかすらわからない英霊。
そんなディルムッドを見つけ出す事など到底不可能に近かった。
第4次に召喚されただけの彼が再び冬木に召喚されたのは、もとより単なる聖杯の気まぐれ。聖杯が飽きれば座へと帰す。つまりはそういう仕組みになっている。
『いい?セイバー、よく聞いて。残念だけど、彼はもう───』
いない。いない。いない。いない。
どうしてだ。ずっと一緒にいると約束したではないか。
私のケーキを間違って食べてしまった事ならもう怒っていませんから。
あなたの大事な本を濡らしてしまった事は何度だって謝りますから。
だから、どうか、帰ってきて。
私はあなたとご飯が食べたい。
「シロウ、おかわり」
あなたがいなくなって、
「おい、もう10杯目だぞ?」
こころの隙間を埋めるように食べた。
「英雄王、飲み比べをしましょう」
涙のかわりに浴びるように飲んだ。
「まだ。まだ。お腹がすきました」
あなた以外のみんなですごした、
「おい、セイバー!」
うすぼけた色の夜。
「ああ、やっとわかりました」
「食べても食べてもお腹が膨れない理由」
「あなたが、隣にいなければ」
「せっかくのシロウのご飯も美味しくないのです」
「会いたい」
「ディルムッド」
「会いたい……!」
むせび泣きながら嘔吐した。
飲んで飲まれてまた吐いた。
ただ赤子還りをしたように、
あなたの助けだけを待っていた。
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お題サイトさんの大好きな文章お借りしました。