どうせ嘘だろって思った。

だってアカギは滅多に顔色を変えない男だから。

でも実際に心臓んとこに耳を押し当ててみたら、

……ホントだった。

ホントにアカギの心臓はドキドキいっていた。
そんなのありえねーって思ってたのに。

「ね…これでオレも緊張してるって分かったでしょ」
「う…ん」

自分の耳が信じられなくて再度押し当てるも、

やはり結果は同じで。

したらやっと実感がわいてきた。
アカギもオレにドキドキしてくれてるんだなって。

「うれしい…」
「何故?」
「だってドキドキしてるのオレだけかと思っ」

かぷり。
喋りかけのくちびるを食まれる。

そのままモグモグされて半分意識がとぶ。

「…そんなこと思ってたんだ」
「っん…ぐ…」
「かわいいですね」

耳元で囁かれて身体の芯から火照っていく。

ただえさえくっついてて暑いというのに、

これ以上体温が上がったら。

――――きっと死んでしまう。

「ア…カギ…ちょ…離れて…」
「どうして?」
「死にそうだからだよっ…」
「……」

ふとアカギが真顔になる。

あ?
なんか嫌な予感…。

「クク…ごめんカイジさん…」
「へ…?てか手っ…どけろよっ…」
「今日は3回までって言ってたけど」

予定変更。
倍プッシュだ…っ!

アカギの宣言に視界がグニャーと歪む。

それってつまり、

「6回…ってことか…?」
「うん。あ、足りない?」
「いやいやいやっ…」

そこは足りないっていうかむしろ余るっていうか…!

「自信ないって…!」
「大丈夫。いけますよ」
「なん――…っの、根拠、が、あっ…」
「だってオレたちに不可能はないでしょ…?」

それはもう爽やかに同意を求められて。

素直にはいそうですねって、

言えるわけなかったけど。

でも確かにオレたちに不可能なことはないのかも…なんて思ってしまった。
もともと不可能なはずの出逢いを果たしている仲なのだから。

「…痛くない?」
「あ…あぁ…へーき…」
「そう…よかった」
「っ…」

不意にそんな優しい顔するなよ。
心臓がびっくりするだろうが…。

「は…、カイジさんのナカ気持ちいいね…」
「ばっか…!」

ぶんぶんと首を振る。

それは“そんなことない”と伝える手段のつもりだったのだけど、

どうやらアカギには違うことが伝わってしまったらしく。

「石鹸のにおいがする…」
「えっ…」

オレが髪を振り乱した拍子に舞った、恐らくシャンプーの香り。
アカギはそれをいたく気に入ってしまったらしい。

「いいにおい…」
「っう…」

結果的に、真上から被さってきたアカギに動きを拘束されることになってしまった。
これではさっきよりも密着していることになる。

「アカギッ…ちょ、苦し…」
「ん…オレも苦しい…」

ダメだ。
なんか離してくれそうにない。

でも、

(ちょっと…かわいい…かも)

こんなアカギを目の当たりにするのは珍しいことだから。

ドキドキとうるさい心臓はそのままに、いつの間にかつながれてた手に爪を立てることでこの場をやり過ごすことにする。

「っ……」
「…ぁ」

ナカでアカギのが大きくなった、気がした。

「参ったな…節操ないね、オレ」
「ん…べつに…オレも、ないし…」
「じゃ今夜は寝かせないって言ったらどうする?」
「……」


どうする?と訊かれても…!

もう…
明日にはバイトが控えてるというのに。

更に言えばアカギには代打ちの仕事が入ってるというのに。

「仕方ねーから一晩つ、つきあってやるよっ…」

下手な挑発をかまして、

ツンツンした言い方しか出来なくて。

――――オレも大概、素直じゃない。





(明日は絶対バイト休も…)



Jan. 28, 2013


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