「カイジさん、ダメ」
鋭い眼光で睨めばカイジさんはふてくされたように唇を尖らせる。
ちょっと可愛いかも…なんて思うが、
ここであっさり引いてはいけない。
カイジさんの為にならないから。
「ちゃんと磨いたろー?オレ」
カイジさんはそう反論してくるけれど。
いやいや。
それにしたって短すぎない?
─────歯磨きの時間。
見たところ恐らく1分も磨いてない。
だから、これは見逃せない。
オレはそう考えたのだ。
しかし、
「大丈夫だってば」
カイジさんは頑なに歯磨きの延長を拒んでくるばかり。
なんだかそれが怪しく思えてきたから、
カイジさんのことだからどうせ面倒くさがってるだけだろうなと見当はついていたけれど。
「今は良くてもそのうち虫歯になりますよ」
―――密かに脅してやった。
虫歯になってからでは治療代も多くかかりますよと。
したらいきなりカイジさんがあわあわし始めるものだから。
「ほら。もう1回ゆっくり磨いてきましょう?」
そこでオレは、ここぞとばかり。
カイジさんの背中を押して洗面所へと戻ったのだった。
カイジさんも流石に虫歯は嫌らしい。
ブチブチ文句を垂れつつも丁寧に歯を磨き直したりして、なんだか憎めない。
可愛い。
可愛いから、ほんのちょっといたずら。
「………ひゃっ!」
口に歯ブラシをくわえたままカイジさんはビクンと肩を竦めた。
多分オレの冷たい手がいきなり背中に侵入したことにびっくりしたんだろう。
その拍子にくちびるの端からは歯磨き粉が少し零れてしまったよう。
オレはそれを指で拭ってやりつつ、
ほんの僅かだけ反省する。
いつもいつもちょっかい出して悪いねって。
だがこれをやめることは出来そうにない。
反応がいちいち可愛いからつい手が出てしまうんだ。
「もうイタズラしてくんなよっ…!」
カイジさんはそう釘を刺してくるけれど。
たぶん…オレはその逆をいってしまうだろう。
いや…ホント悪いね。
心からそう思ってる。
でも、
これも分かりにくいオレからの愛情表現だと思って…
笑ってゆるしてくんねーかな?
ねぇ、カイジさん。
Aug. 1, 2012〜Jan. 6, 2013
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