君の勝ちに決まってる。 − Steven

「珍しいですね、スターフェイズさんとツーマンセルなんて」
 タイルの壁に寄りかかり、手元の銃に弾を装填しながら◆が云った。
「そうかい?」
「私は大抵援護射撃だから、K.K姐と、もしくは単独が多いですもん」
 カチャリと閉鎖した◆は得物をホルスターへ収める。
「配備指示はスターフェイズさんでしょ?」
「ああ、そうだよ」
 僕も彼女と同様、壁に寄りかかり、何となく靴のつま先でコンクリートを蹴った。
「君と二人きりになりたくてね」
「アハハ! そういうの、職権乱用って云うんですよ」
 豪快に吹き出した◆に、わざとらしく肩をすくめてみせる。
「そこは赤くなって戸惑ってもらうところなんだけどな」
 すると、◆はケラケラと笑いながら、やっとこちらを見てくれた。
「残念ながら、ご希望のリアクションは取れませんね」
 その瞳が僕を射抜く瞬間が、その感覚が――
「でも、実は私もスターフェイズさんと二人きりで嬉しいです」
 ――クセになる。
「光栄だね」
 なんとかそう答える僕をよそに、◆がぐい、と近付く。
「任務以外じゃ、二人きりにはなってくれないんですか?」
 小首を傾げてそう訊ねてくる彼女は、その仕草、セリフ……全て無意識だろう。普段、ビジネスで付き合う女性たちの駆け引き戦争に、もはや辟易を通り越している自分には、何と云うか、かなりの破壊力。
「……願ってもないことだよ」
「ふふ、良かった」
 細めた目のラインに触れたくなって、ポケットに突っ込んでいた手をグ、と握った。
「美味いトラットリアを知ってるんだ」
「うーん、それも魅力的ですけど、私はスターフェイズさんの手料理が食べたいですねえ」
 ブルブルと震えたスマートフォンを取り落としそうになるなんて、本当どうかしてるぜ、俺。
「……ザップか。クラウスたちも配置についただろうから、そろそろ作戦開始して――ああ、頼むよ」
 通話を切ると、再び◆は銃を手にして、ザップたちの合図を待つように態勢を整えていた。
「全く、困ったお嬢さんだ」
「えっ、やだなあ私も手伝いますよ」
 キッチン広そうだからお料理しやすいでしょうね、ってそうじゃないから。
「――あ、合図出ました! 行きましょう!」
 駆け出す彼女の腕を思わず掴む。
「わっ……え? スターフェ――」
「あー、◆」
 なんてこった、俺としたことが、二枚目の顔を作れている自信がない。
「今夜、僕の家でディナーを、どうだい」
 思わずぎゅ、と細い手首を握ってしまうと、そこへ一度視線を落とした◆が、
「もちろん!!」
 とても嬉しそうに頷いてくれて。
 その笑顔に、年甲斐もなく心臓が跳ねて、それを誤魔化すための溜め息が漏れる。
「じゃ、二人っきりのディナーのために、ちゃっちゃと仕事終わらせちゃいましょう!」
「ハハ、君は色気より食い気っぽいな」
 ◆、君には一生勝てる気がしないよ。


 Fin.

2015.08.28

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