また一興 (1/7)

 ◆の慰労会に選ばれた場所は、日本の居酒屋の宴会場を模した堀ごたつのある広間だった。
 元からそうなのではなく、この店が客の要望に応えて部屋を作り替えてしまうのだ。
 時にDJブースのあるダンスホールだったり、バーベキューコンロが幾つも用意されたバーベキュー場だったり。はたまた、畳張りの茶室などにもなる。
「この店、さすがHLって感じだな。広さも造りも全部変えちまうなんてよ」
 この街で驚くことも少なくなってきたが、さすがのザップも感心したのか、ピザのチーズを口から伸ばしながら頷いている。――彼は無事、愛人に会費を借りられたようだ。
「うむ、空間を自在に操る術者が居るのだろうか? 術式が店自体に……?」
 興味津々、とクラウスも頷く。
「それって、レオが見ようとすれば“見える”の?」
 クラウスの隣に座っている◆は、田園風景の描かれた白いラベルのワインボトルを、既に空けたところだった。
 向かいの席に居たレオは、そうですね――と周囲を見回す。
「あ、いいの! 仕事中じゃないのに、能力使うなんて疲れちゃうでしょ」
 見えるのかなって思っただけ、と慌てて云う◆は、クラウスに大皿の魚料理を取り分けてもらっている。
「◆、レオナルド君は“世界を書き換える”に等しい術力保有者の技をも見破ってしまうのだ」
「あ! それ“ゴーストワゴン”の一件ですね? それに“血界の眷属”の諱名も読み取るとか――ギルベルトさんの定期連絡で聞きました。すごいね、レオナルド」
 魚料理を受け取り、箸で綺麗に食べていく◆は、ニコニコと褒めてくれる。
「いやいや、眼以外一般人の僕が出来ることなんてそれくらいですし……。◆さんこそ、ブッ倒れるまで作業して、報告書提出してたじゃないすか。その方が僕的には驚きですよ」
「確かにそうだな、少年。“あの量”を一週間で仕上げるなんて、僕でも出来ないなあ」
 ジャケットを脱ぎ、ネクタイも取って寛いでいるスティーブンは、ワイングラスを手に取りながら云った。
「それに、内容も非常に素晴らしかったよ。あれは今後の活動において良質な資料になる」
「やった! そう云って貰えると、一年の活動も、ここ一週間の徹夜も報われる」
 ◆は白身魚を美味しそうに食べ、ふふと笑った。
「本当は、五日目には提出してやるつもりだったの。でも、ブリッツおじ様と調査した件があって、その資料が手元になかったから少し手こずっちゃった」
「ブリッツ……って、え、エイブラムスさんですかっ?」
 名前を聞くだけで少し鳥肌が立ってしまうのは失礼なことだが、それは仕方無いのだと、レオは内心開き直りつつそう訊いた。
「うん、ブリッツ・T・エイブラムスおじ様。連絡した時は離れた区画でお仕事中で、事務所に資料を渡しに行くって云ってくれたんだけど、時間も掛かるし、データだけ送ってもらったんだ」
 その言葉に、この場に居たメンバー全員(クラウスを除く)が、ホッと息を漏らしたのは云うまでもない。
 “豪運のエイブラムス”――その体質ゆえ、周囲に与える被害は甚大なのだ。
「昨日はゆっくり体を休められたかね、◆」
 クラウスが今度はローストビーフを取り分け、◆の前に小皿を置くと、自分はレバー料理を食すためにやっとフォークを手にした。
「はい! ベッドでダラダラするとか久しぶりで。お昼過ぎに目が覚めてからは、デリバリーでご飯食べて、荷物の整理したりゲームしたり……ふふ、明日もお休みだし、今日は飲んじゃいますよ!」
 そう云った◆は上機嫌で、文字通り仕事から解放された表情だ。

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