慣れている温もり (2/2)

「お付き合いされているのですか?」
「ブッ……!」
 コーヒーを飲む前で良かった――レオはカップをそろりと置いた。
「ツェッドさんて、意外とそういうタイプですか」
「え? ハッ……僕は何か良くないことを云ってしまいましたか!?」
「あはは……いえ、いいんですけどね」
 別に禁句ではない。ただ、K.Kに明言を避けられているので、あまり触れてはいけないことかとレオが勝手に思っているだけだ。
 そんな風に、メンバーに見守られているとは知らず、クラウスと◆は穏やかに、そして穏やかではない話をしていた。
「――チェインからの情報によると、先日の分派によって緊張状態が高まっているらしいのだ」
「いっそ抗争を誘発させて、どちらも弱体化というのを狙ったほうが……」
 モニターを覗き込む◆は、クラウスが握っているマウスを手ごと掴んで、ページをスクロールさせた。
「…………」
「どちらの資金源も薬物と臓器売買ですから……うーん、そっちのプッシャー周りから静かに崩していった方がコトは大きくならないかな……。当局はその辺り握ってそうですよね」
 節くれだった無骨で大きな手から小さな白い手を離し、◆は顔を上げる。
「じゃあ、そこは僕が行こうか」
 分かってたよ、とばかりにスティーブンがため息を吐いて立ち上がった。
「それは助かるけど、今から?」
「早いほうがいいだろう? ちょうど外に用もあるし、それに、お嬢が云うならいつでもどこへでも行くさ」
 キザっぽい台詞もこの番頭役にはサマになるわけだが、◆は素直に「ありがとう」と微笑んだ。
「ネゴが上手い人って器が大きいんだって」
「取って付けたような云い方だな」
「あと、色男!」
「褒められてる気がしないぞ」
 スティーブンが当局からどのようにして情報を引っ張ってくるのか、知っているかのように◆が悪戯っぽく笑う。傍らで先ほどから動かない我がリーダーは、聞いているのかいないのか――多分、聞いていたとしても意味を知ることはないだろうが。
 たしなめるように◆をひと睨みしてから、スティーブンはジャケットを羽織り、外出の準備をする。
「僕からも頼みがある――今からお嬢はクラウスとランチに行ってくるんだ。そして帰りにサブウェイでサンドイッチを買ってきてくれ」
「オニオン多めでもいい?」
「じゃあこう云っておこうか? “オリーブ怖い”」
 その返事に、◆は声を上げて笑い、クラウスを振り返った。
「――ですって、クラウスさん。ちょっと遅くなっちゃったけど、お昼食べに行きましょ」
「う、うむ……」
 石化の魔法から解かれたように、マウスから手がやっと離される。
「頼んだぞー」
 スティーブンは背を向けて手を振りつつ、先に事務所を出ていった。
「少し出てくる。ギルベルト」
「畏まりました。坊ちゃま、お嬢様、お気をつけて」
 残る三人に、◆は行ってきます、と声をかけ、クラウスと共にどこでもエレベータへ吸い込まれて行った。
「…………本当に、不思議な方たちですね」
 先ほどは“不思議な二人”と称したツェッドだったが、数分で対象が増えたようだ。
「でも、“オリーブ怖い”ってなんですかね? スティーブンさんはオリーブ抜きが希望?」
「その逆でしょう――日本のRAKUGOにあるんですよ、そういう噺が。怖いものを云い合い、“饅頭が怖い”と云う男に饅頭を山盛りにしてやったら、美味そうに食べてしまったという」
「へえ、面白い! じゃあ、スティーブンさんも◆さんもそれを知ってるからの会話かあ……俺なんか全然分かんないや。てか、ツェッドさんもよく知ってますね」
「昔……聞いたことが」
 ツェッドの表情は変わらず、その面構えゆえ非常に解りにくいが――それはほんの少し寂しそうに見えた。
「……。でもツェッドさん、こんなんじゃないっすよ。特にクラウスさんと◆さんは」
「えっ、そうなんですか!?」
 素直に驚いてくれるツェッドに、先輩面で意味深に頷いてみせる。
「そのうち分かりますよ」
 特にツェッドは事務所の一室で生活している。きっと“そういう”場面に遭遇することが多いだろう。
「……興味深い人たちだ……」
 秘密結社の一員となったからには知識をもっと深めねば、と可笑しな方向へ意気込み、再び本を開くツェッドであった。




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