[泣き顔にさえ心が奮える]








ずっと前から感じていたひとつの違和感。彼女が誰かに微笑むたびに、誰かに話しかけるたびに、誰かが彼女に触れるたびに、その違和感は俺の中で大きくなる。最初はそれがどんな想いなのか、どうしてなのかさえわからなかったけど、今ならはっきりとわかる。この違和感は、彼女への束縛なんだ。俺しか見えなくなればいいのに、俺にしか求めなければいいのに…いつからかこの感情が黒く染まっていたことに気付いた。俺がそうなように、マカも俺を酸素のように必要にしてほしい。

お前は俺のものだろ?

何回か見えない不安にかられて、彼女に問いかけたことがある。俺がそうやって聞くたびに、マカは笑って当たり前だというけど。その愛はどれくらいのものなのか、俺みたいに全てを失ってもいいくらい俺のことを欲していてくれているのか。なんて馬鹿みたいなことを考える俺がいる。彼女が俺を好きでいてくれることはわかるのに、それだけじゃ足りない。もっともっと…と傲慢になっていく。

「ソウル…」
「…えっ?」
「どうしたの、ボーっとしてたけど?」

マカに名前を呼ばれて顔をあげると、心配そうに俺を見つめる翡翠と目が合う。今は夕食を食べ終わり、お互いに寛いでいたはずだが、マカはいつのまにか髪が濡れていて肩にタオルをかけていて風呂から上がったみたいだった。視線を下に落とすと、開いていた音楽雑誌は全くページが進んでいない。代わりに壁にかかっている時計が刻む時刻は大幅に進んでいた。

なんでもないと返してみたけど、マカは不審がって追求しようとしてくる。自分を気遣うその優しさに素直に甘えてみたいと思うけど、心の奥の黒い疼きが邪魔する。だって彼女が優しいなんて、誰にでもなのだから。

「なんかソウル、最近おかしいよ?ボーっとしてることが多いっていうか…」
「そうでもねぇよ…」
「でも…っ」

なにか言いかけていた彼女の腕を引いて、座っていたソファに押し倒す。驚いたような、おびえるような表情を隠し切れていないマカは、ひどく可愛くて愛しい。

「なに、今頃気付いたの…?」
「な、んで…」
「もう遅いよ…」

俺の瞳に見え隠れしては渦巻いている狂気が見えたのか、はたまた彼女お得意の魂感知能力なのか、彼女は俺が狂気に堕ちていたたことをようやく悟ったらしい。でもね、もう遅いんだよ。なんでって聞かれてもわからないけど、それだけは確信している。きっとお前への愛が続く限り、この狂気は渦巻き続けると思うんだ。だからこの狂気からはもう逃れられないし、抜け出すことも不可能。だって俺がお前を愛さなくなる日なんて来るわけがないんだから。

「そう…る…」
「誰にもやらねぇよ、お前は俺だけのものだ…」

ずっとずっと、俺だけの…。

怯えの色を一層濃くする瞳に、にこやかに微笑んで彼女の前髪をかきわけておでこにキスを一つ落とす。そのまま唇を下ろしていって、瞼に、鼻に、唇に愛を垂らしていく。マカはそのたびに、震える肩をびくつかせて信じられないって俺を見るから、教えてやろうと思う。逃げられないよって、お前は俺だけのものだって…。
瞳から涙を伝わせるマカの腕を近くに放り出されていた制服のネクタイで束ね、頭上に固定してやる。いやいやと顔を振るマカに、俺だって本当はこんなことしたくないんだと目で訴えるけど、涙で歪むマカの視界にそれが見えているかは定かでないけど。

「い、やっ…ソウル、やめっ」
「ちょっと黙ってろ」

パジャマの下を脱がして、白くすべやかなマカの太ももに手を添える。足の付け根に近い、柔らかなところに自分の刃を当てると、ぷつりと皮膚が切れ鮮血が流れ出し真っ白な肌に映えて綺麗だ。泣きごとを漏らすマカを気にも留めず、そのままいくつか傷跡を付けていくと、楔文字のような字で刻まれたSOULの文字がマカの太ももに出来あがった。
痛々しくも、マカにこの傷を作ったのが俺だと思うと、背徳感に似た優越感で心が満たされる。

「女の身体って傷跡がつきやすいんだよな?これ…一生消えねぇよ」
「っ、ひっく…ひどい…、よ」
「…可愛い」

血にまみれた白いその肌に唇を寄せて、流れる傷を舐める。鉄のような味でも、マカの血なら甘く甘美なものに感じる。

マカもこの底の見えない闇に堕としてあげる。そうじゃないと可哀相だろ・・・俺もマカも。愛を口移しで伝えるように、深く深く唇を重ね合わせた。




end.

金碧糖さんから相互記念に頂きました。
マニアックなリクエストだったんですがすぐさま書いて下さり嬉しかったです!
素敵な小説ありがとうございました。

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