パパ→→マカ表現注意










俺達は初めから家族について多く語らなかった。馴れ親しんでも、喧嘩が出来るようになっても。
でもマカは随分明るいし、母のことはよく分からないが、デスサイズとは口喧嘩しながらも、仲が悪そうには見えなかった。

だから、たまに泣いて帰ってくる理由が分からずにいた。




窓の外からふざけた月が笑う。
普通なら眠りにつくような時間だが、そう出来ない理由が俺にはあった。

(あの馬鹿、すぐ帰るって言ったのに)

時計をちらりと見て、溜め息をつく。
いつもなら速攻でバイクに乗りデスシティ中を探し回っているところだか、今日はマカの現在地も把握しているので、その必要は全くもってない。
ただデスサイズの元へ本を取りに行っただけなのに、あまりにも帰りが遅いのでちょっと気になっているだけ。
もしかしたら帰り道に何かあったんじゃないかと思ったが。

(まああの父親のことだ、こんな夜道を娘1人で帰すことなんてしないと思うけど)

ただ今日なんとなく、なんとなくなんだけど、胸騒ぎがするだけ

たまにだがそのままデスサイズの家に泊まっていくこともあるしこんなに心配することはないんだろうが、しかし電話ぐらい入れてくれたっていいだろうと思いながら本日二回目の電話をかけようとしたその時。

ガチャ

玄関から扉の開く音がした。

「…マカ?」

マカだ。そう思って小走りで玄関の方へ向かった。
遅すぎるだろとか、遅くなるんならせめて連絡ぐらい入れろとか、そんなことを言おうと思っていたが、マカを見た瞬間そんなことは頭からすっぽりと抜けた。

彼女の普段きっちりとしたシャツのボタンは第二まで開き、ネクタイは無造作に結ばれ、二つに結ばれていたはずの髪は崩れきっている。
そんな格好のまま、俯いて玄関に棒立ちになっていたのだ。

俺は目を見開き、急いで彼女の元へ駆け寄った。

「マカ!?どうしたんだよ!?なんかあったのか!?」

俺はマカの肩を掴み、顔を覗き込もうとしたが、もっと深く俯かれてしまった。

その時、ぽたりと。

足下に何かが落ちた。
それは、ぼたぼたと数を増やして。

「………」

「マ…カ…?」

マカは俺のパーカーの裾をきゅっと掴んだ。

「う、ぅ、っ・・・・」

やだ、もうやだ、やだ・・・

否定的な言葉をぼろぼろ溢しながら、マカは静かに泣き崩れた。












「ソウル、困らせてごめんね。あの時のことは忘れて」

翌日、あの夜のことについて何度も追求しても答えようとしなかった彼女が、唯一言った言葉。

マカは前から泣き虫な方だが、あんな泣き方をするのは初めて見た。あんな、何かを押し殺しているような感じ。

マカがあまりにも黙るので、あれ以上は言わなかったが、心のどこかで、どことなく感じていたものが疼く。
パパなんて嫌いを、呪いがかかったように呟き、唇が切れるまで何度も洗面所の水で洗い流していたあの朝を思いだす。

ただ俺は、いつでも話聞くから、それだけをしどろもどろに伝えた。マカはそれを聞くと、ほっとした表情になり、硬くなっていた頬が少し柔らかくなって、少しだけ微笑んだ。

目が笑っていないことに、気がつかない訳ではなかったけれど。

胸騒ぎがした。前の胸騒ぎとは違う、確信めいた胸騒ぎだった。




「…で、お前が俺に何の用だ」

死武専の屋上。
俺は彼女を泣かせる張本人だと確信している奴を呼び出した。

「…ちょと、な」

「ソウル、お前今授業中だろうが」

「お前こそ」

「俺は今授業ないからいいんだよ」

たっく、武器ならマカから離れるんじゃねえよ、俺の可愛い娘に何かあったらどうしてくれんだ、と、ぼそっと漏らした言葉を俺は聞き逃さなかった。

「それ、本気で言ってんの?」

そう俺が呟くと、それまで眉間に皺を寄せていたスピリットが、目を丸くした。

「…なんのことだ」

「何?へえ、一応喰いつくんだ。これは俺の勘も持ち腐れてねえな」

「・・・・・・」

なあ、昨日、マカ送っていかなかったんだな。夜なのに珍しいこともあるもんだ。いや、マカが勝手に逃げたからかな。あんまりにも嫌われてるのも辛いね、お父さん。でも1人で夜中出歩かせるなんて、変な男に襲われたらどうしてくれんよ。それもまんざらじゃないかもよ。

間髪入れずに、独り言のように呟いたそれに、デスサイズは何も反応しない。ああ、まさか、そういうことなのか。


マカに、会いたい。


「嫌われるようなことしてんだパパは」








違う、違う、マカは、ママじゃない。
分かってるけど、ああ聞いてくれよ。最近言う言葉までママとそっくりそのまんまなんだ。また女の所に行って。馬鹿。何考えてんの。私の気持ち考えたことないの。私は愛してるのに。あんただけを愛してるのに。でも泣いてる人をほっとけないのよねアンタは。優しいから。でもそれは私にとっても優しさじゃないしその泣いている可哀想な人にとっても優しさじゃない。あんたはそれが、分かってない。でもそれがあんたの良い所なの。一番いい所。それがなかったら私は結婚もしてない。だから離婚する。だって私、あなたの一番いい所を愛せなくなっちゃったんだもの。ごめんね。ごめん・・・じゃあね。バイバイ、スピリット。

待って、違うんだ。そうじゃない。
愛してるんだ、愛してるんだ!
待ってくれ!待って!

「パパ」

また女の人の所に行ってたの。馬鹿!何考えてんのよ!ママのこと愛してるんじゃないの?私のこと愛してるんじゃないの?


ママが好きだったのかと言えば、勿論好きだったし、愛してもいた。
だけど年々二人を覆う違和感に、色んな感情に理由をつけながら、「愛せなくなった」と、語るしか術がない。

世界一大切な人だけど、世界一大切な女ではないこと。皮肉にもマカが生まれてから気がつくだなんて。
恋だと錯覚してしまったことがそもそもの間違いだったのだ。
恐怖感、達成感、安心感、幸福感、大切なものを全部俺にくれた上に、その気持ち全部を共有してしまって、それがとてつもなく心地よかった。悪く言えばそれだけだ。

そう思うのに、どんなに綺麗な女が言い寄ってきても、どんなに好みの女を口説いても、どんなに男女の凹凸を埋めようと、俺は満たされることはない。

どちらも欲しいだなんて、欲張りだ。望んでも、そんなこと出来るはずもない。ママは俺のもとにはもう現れることはない。
分かってる。分かってるけど、心の隅にぽっかり空いた隙間はもう誰にも埋められない。埋めることが出来る人はもう側にはいない。
間違えなければ良かったと後悔してもそれはもう後の祭りだ。

「スピリット!」

思い出の中で、ママが屈託のない笑顔で俺の名前を叫んでいる。
デスサイズになれた日に泣いて抱きついてきてくれたことが嬉しくて嬉しくて、この人と居ればずっと幸せでいられると、どこから出てきたのか分からない確信が、喜びと過ちをごちゃごちゃにしていく。俺は分からなかったのだ。










そうして掴んだはずの手は、ママだと錯覚した、昔のママにそっくりな真面目で頑張り屋な魂のあの子だった。












それでもあなたが嫌いになれない私は







パパママが気になります。


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