スマートフォン解析 幸佐 短編 | ナノ
才蔵と佐助
俺様の『可愛い主様』には、ちょっとした癖がある。
何か気持ちを伝えたい時──でもなかなか口に出来ない時、困ったように此方を見つめてくる。
俺様、穴が開いちゃうんじゃないかと思える程、じっと見つめてくる。

それでも此方が気がつかなければ、今度は服を遠慮がちに掴んでくる。
──本人は遠慮しているつもりなんだろうけど、鷲掴みしてくるから服に皺がよってしまうも友しばしば。

それでも、此方が忙しくて相手が出来ない時。きまって「佐助」と呼んでくる。
どんなに忙しくても、泣きそうな声で名前を呼ばれてしまえばこれ以上待たせる訳にはいかなくて。
ついつい作業の手を止める事が多い。

勿論例外だってある。武田軍忍隊隊長の任についているのだ。毎日が忙しない。
すぐ傍に居るんだから、名前を呼ばれなくても其処に居るという安堵感があるためか、此方も主を後回しにしてしまう事がある。

そういう時、きまって主の拳が飛んでくる。
ひらりと避ければ「何故よける!」と憤怒。
避けずに受ければ「何故よけぬ!」と憤怒。
じゃ、どっちにすりゃいいんだよ!と此方が怒れば、決まって主の言葉はいつも同じ。

「佐助、お前が悪い」

何時までたっても中身は『出会ったばかりの頃』のまま、すくすくと成長してしまった可愛い主に、佐助は小さく溜息をこぼした。

「真田の旦那は、何時までも純粋爛漫だよね…どうやったらあぁ育っちゃうのか…」

育ての親の顔が見たいと洩らせば、茶飲みに付き合わされている才蔵は呆れたように顔を顰めた。
何も云わぬ顔には「お前だろうが」と書かれている。
佐助はすっかり冷めてしまったお茶を一気に飲み干すと、茶飲みを縁側に叩きつけるようにおろした。

「俺様だって、あんな風に育つとは思わなかったんだよ!」

力むように話す佐助に、才蔵は「そうかいそうかい」と聞き流すように茶を啜った。
想定内の才蔵の反応に対し、佐助は不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。想定内とはいえ、少しくらい労わってくれてもいいだろうが。それが佐助の考えだった。

「…真田の旦那だって、黙っていれば格好良いのにさ…」
「……お前に男色の好みがあるとは、知らなかった」

さほど驚いては居ないのだろう。才蔵は二人の間に置かれた皿からゴマ団子を一つ摘むと、自分の口の中に放り込んだ。
口いっぱいに広がる甘みとゴマの風味が美味である。

「あれ?知らなかったっけ?」
「………お前が常日頃、散々俺やお館様に主との惚気をほざくまでは知らなかったさ」

聞き飽きた、もう耳にタコだ。
呆れた様子で告げてくる才蔵に、佐助は耳まで真っ赤に染めて両手で自分の顔を隠すように覆った。

「大将まで俺と旦那の関係知ってるなんて…やだまじうわ!!!」
「鬱陶しい……」

一人ぎゃーぎゃー騒ぐ佐助に、才蔵は彼の頭を軽く小突いた。
才蔵はそろそろ湯気が出るんじゃないかというくらい真っ赤に染まった佐助を見つめながら、心の中で小さく呟いた。

──知らぬ間に惚気て周りを巻き込むのは佐助の悪い癖だな…

麗らかな昼下がり。
佐助におやつの催促をする幸村の声が届くまで、あと僅かである。
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