スマートフォン解析 幸佐 短編 | ナノ
髪の毛
「佐助のかみは好きだ」

陽だまりに包まれたような、暖かい感情を教えてくれたのは小さな手だった。
物心ついた時には、すでに忍びとして闇の中で生きていた。
それが当たり前なのだと、自分に云い聞かせるように淡々と生きていた。
両手は真っ赤に染まり、心はどんどん闇へと堕ちていく。


「それがしは、真田家当主の次男。弁丸でござる」

そんなある日、師匠に連れられ山を降りた先で出会った幼い子供。
師匠と──師匠の友がニヤニヤ笑みを浮かべ此方を見ている中、差し出された小さな手。

触ったら柔らかいのだろうな。
ふと、過ぎるのは憎悪にも似た感情。

綺麗な手。
汚してめちゃめちゃにしたい。
憎悪に似た感情が心の奥から闇を引きつれ溢れ出す。

そんな中、子供は無邪気な笑みを浮かべ、こう云うのだ。

「そなたがそれがしの忍びとなる佐助か」

小さな手は、ゆっくり佐助に伸ばされる。
足を曲げ控えている佐助の頭は、丁度弁丸の目の前にあった。頭を下げている佐助には、弁丸が何をしようとしているのか分からない。

子供とは、大人と違い行動が読めないのだ。
ふと、ぐわしっと音が聞こえた気がする。
頭を引っ張られる痛みが走り、すぐに髪を引っ張られている事に気がつき、顔を上げる。
すると佐助が顔を上げたことに気がついた弁丸は、佐助と視線を合わせニンマリ笑みを浮かべた。

「佐助のかみはとてもきれいだ。まるでお日様のようで、それがしは好きだ」

無邪気に笑う幼子。なんて綺麗な笑顔なんだろう。
慌てて弁丸を佐助から引き離そうとする大人たちに、驚いた弁丸は大粒の涙を浮かべ泣き出してしまった。
丁度耳元で大声で泣かれ、挙句の果てに髪をしっかり掴まれている佐助は、痛いやら煩いやらと苦笑いが込み上げる。
大人たちが離すように優しく諭すが、弁丸は佐助の髪を掴んだまま、嫌々と首を横に振る。挙句の果てには、佐助の頭に腕を回し絶対に放すものかと抵抗を見せた。
弁丸の胸元に顔を押し付けられた佐助は、息苦しいという気持ちよりも先に、ほのかに感じる子供特有の暖かさを感じ取っていた。


トクン…トクン…

聞こえてくるのは、小さな心臓の音。それはとても穏やかで心地が良い。
佐助は弁丸の背中に腕を回し、あやすように摩ったり軽く叩いたりした。
すると泣きじゃくっていた弁丸は、スンスンと鼻を鳴らし泣き止んだ。

ゆっくり佐助から離れていく弁丸に、佐助は背中に回していた腕を今度は弁丸の両肩に乗せた。そして、愚図る子供をあやすように笑みを浮かべた。無意識だった。
無意識に、先ほどの弁丸の無邪気な笑みが脳裏に浮かび上がり、同じように穏やかな笑みを浮かべていた。

「弁丸さま…本日から彼方様の忍びになった佐助です」
「…う…うぬ…っ」

しゃくりたてながらも気丈に振舞おうと胸をはる仕草に、佐助は思わず噴出しそうになった。慌てて口を手で塞いだ佐助に、弁丸は何かを感じ取ったのか、くしゃっと顔を顰めた。

「佐助…お主、今笑おうとしたか?」

頬を膨らませ拗ねる幼い主に、佐助は誤魔化す様に笑みを浮かべた。
先ほどとは違う、明らかな作り笑顔だ。

「いいえ、そんな事はありません。弁丸さ…ぶは!!」

何とか誤魔化そうとする佐助だったが、弁丸の背後で唇を尖らせたりと

──わざと変な顔を見せる大人気ない大人二人の悪戯に、佐助は結局噴出し笑ってしまった。

自分のことを笑われたと勘違いした弁丸は、徐々に顔を赤く染め不機嫌そうに頬をさらに膨らませた。
その後、何とか宥めることが出来た佐助は、弁丸を他の忍びに任せると、大人気ない大人二人を拳を揮ったのは云うまでもない。


愛らしいやり取りをしている弁丸と佐助の両者を見守りながら、保護者二人は微笑ましそうに笑みを浮かべていた。
ふと弁丸パパがポツリ言葉をもらした。

「やはりうちの弁丸が一番可愛いな」
「何を云っておるんじゃ。うちの佐助が一番可愛いの〜」

………

「……おい、じじい。貴様うちの弁丸を馬鹿にしとんのか?」
「おいおい若造が。お主こそ佐助を低評価しとるんじゃないだろうな〜」

………プチッ

表に出ろ、表だ!!!

二人の白熱した子供じみた口論を見つめながら、佐助は弁丸の両目を手で覆い呆れた様にため息をこぼした。そして将来、あのような大人には成るまいと心に誓ったのであった。
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