スマートフォン解析 幸佐 短編 | ナノ
佐助はどこだ
「佐助はどこだ!佐助、佐助!!」

──おや、珍しい。
まるで親鳥を求める小鳥のように、何度も何度も佐助の名を呼ぶ幸村に、忍隊副隊長の才蔵は随分珍しいこともあるものだと思った。

主君が忍びを呼ぶことは、さほど珍しい事ではない。
現に、幸村の父親も当時の忍隊隊長を呼ぶときは、忍びの名を直接叫んだものだ。
珍しいのは、忍びを呼ぶことではない。

呼ばれても、佐助が姿を現さないということだ。
しかし、佐助だって年がら年中幸村に張り付いているわけではない。
『──…否、佐助なら360日くらいは主にべったり張り付いていく気がする。否、多分そうだ。』

佐助も時には幸村の傍から離れることがある。
『──任務だったり、任務だったり、任務だったり。』

『──おや、任務ばかりだな。』
しかし、時にミスをおかし才蔵にこてんぱんに叱り付けられ、拗ねて上田城の裏山にこもった時もあった。
『──あの時は、愉快だった。』

『──おっと、こんな事を考えていたら幸村様の鉄拳が飛んでくる。それだけは気をつけないと。あれを食らって寝込まないのは、信玄公と佐助くらいだ。』

才蔵は悶々と考えを膨らませていった。
それでも、彼の表情は何ら変化を見せない。感情が顔に出ないのだ。

佐助も時には幸村の傍から離れることがある。
『──しかし、その時は決まって幸村様に一言残していくのだ。』
そのせいか、幸村は佐助が傍に居ないと知っていて、佐助佐助と連呼はしない。

だから、珍しいのだ。
幸村が佐助と何度読んでも、佐助が姿を現さないことが。

『──はて、奴は何処にいったのやら…』

そろそろ幸村が癇癪を起こす一歩手前だと才蔵は勘付き、辺り一面を見回した。
『──見当たらない。』
才蔵は渋々と屋根の上に移動し、高い位置から辺り一面を見渡した。
しかし、やはり佐助の姿は何処にもない。

「あの馬鹿が…何処に雲隠れしている」

ふと、屋根の下から聞こえてくる幸村の声に苛立ちが見え始めた。
弁丸の頃と比べ、癇癪を起こす回数はぐんと減ったが、癇癪を起こせば手に負えなくなる。
無残な光景を想像し、才蔵は青ざめた。


その時だ。

「はいは〜い!」

気の抜けるような暢気な返事が聞こえてきたのは。
才蔵は驚いた様子で屋根から地に下りると、其処には割烹着を身に纏った佐助の姿があった。
右手には大量の団子が乗った大皿。左手は幸村の頭を優しく撫でている。

「佐助!何故呼んでもこないのだ!!」
「ごめんね、団子作ってたら夢中になっちゃってさ」

どうやら台所にこもって団子を作っていたらしい。
そもそも忍者が…云々と文句を云いたくなった才蔵だったが、今はご機嫌斜めの主を何とかするのが先だ。

「佐助、午後からの指揮は俺が行う」
「あれ?才、いつの間に居たの?」
「…殴りたくなるから黙って聞け。お前は今日は幸村様のお傍にいろ。いいな」
「…うん、何だか才とかに申しわけないけど、頼んだ」

あれ?
今日は朝まで旦那と一緒に居られるの?
などと暢気に喜ぶ佐助に、才蔵は口角を引きつらせながら静かに告げその場を去った。

「明日、午前中はあけておけ。重要な話がある」
「?…任務のことかな?了解!」

ありがとうね!と背後から聞こえてくる佐助の声に、才蔵はくつくつと小さく笑った。

──次の日。
午前中はあんなにも暑かったのに、午後からは風も出てきてすっかり涼しくなっていた。
自室で涼みながら幸村は西瓜を頬張っていた。
ふと、天井裏からしくしくと泣き声が聞こえてきて、幸村は西瓜を皿の上に乗せ天井に向かって声をかけた。

「佐助!そう泣くな。涙が枯れるぞ」

返事がない。仕方ないと思いながら、幸村はゆっくり立ち上がった。
梯子を使い天井の壁を一枚ずらす。普段、佐助が出入りする場所を知っているのだ。
屋根裏部屋に顔を突っ込めば、薄暗く狭い空間の奥に黒い物体が小刻みに震えている姿を見つける。
嗚咽しながら震えるそれは、闇に慣れてきた幸村の眼に映し出される──丸まった佐助の姿だった。

「だってだって!才のやつ、何であんなにも怒るんだよ〜!!」
「お前たちはいい加減仲良くやれんのか…」

あきれたように声をかければ、佐助はゆっくり顔をあげ幸村の方を見た。そしてほふく前進しながら幸村の方に進んでくると、大粒の涙を零しながら抱きついてきた。

「旦那〜!聞いてよ!!才ったら酷いんだよ!!」
「さ、佐助!危ない!梯子が倒れる!」

泣きじゃくる佐助を抱きしめながら、何とかバランスを取りつつ幸村は小さくため息をついた。

「また才蔵に怒られたら敵わぬ。佐助…当分は俺の傍から離れるな」
「うん!!」

ひっしり抱きついてくる佐助は、何度も何度も頷いた。
prev bkm next

[ top ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -