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雨のにおい
雨のにおい
野に咲く一輪の名も無い花を見つけ、何だかあの忍に似ている気がした。
何気なく咲く小さな花。
だけど、不思議と目がそらせない。
焼きついて離れない其の姿は、太陽の光をふんだんに浴び、慎ましくも暖かな光に包まれ咲いていた。

小さな手を伸ばし、其の花に触れようとした時、背後から忍の自分を呼ぶ声が聞こる。弁丸は慌てて立ち上がると、彼を呼ぶ忍の元へと走り去ってしまった。

其の日は朝から天気が悪く、弁丸は不安げに外を見つめていた。

昨日見つけた、あの小さき花は大丈夫だろうか?
大粒の雨の重みに押しつぶされないだろうか?
それとも誰かに踏みつけられていないだろうか?

こみ上げる不安は、時間が立てばたつほど深くなる。



「今日のオヤツは若様が大好きなみたらし団子ですよ」

茜色の髪を靡かせ団子山盛りの皿を片手に、忍は足音すら立てずに歩み寄る。
すると大粒の涙を浮かべ不安げに見つめる茶色の眼と視線がぶつかり、忍は子供の視線に合わせるようにその場にしゃがみこんだ。

手にしていたお皿は机の上に乗せ、開いた手で小さな主の頭を優しく撫でる。 すると大粒の涙は零れ落ち、幼子は忍にすがりつく。

「佐助〜…花が萎れてしまうのだ」

其の日、忍は泣きじゃくる幼子を背中に背負うと、あやす様に体を揺らし子供の尻を優しく叩く。

幼子は徐々に安心してきたのは、しゃくりたてながらも徐々に目を細めうとうとと眠りの世界へと落ちていく。

忍がふと外に視線を向けると、すでに大粒の雨が天から降り注いでいた。 赤子を背負いながら、忍は小さくため息をついた。



「佐助!佐助!見てくれ!花が某の元へ遊びに来てくれたぞ!!」

次の日は、からっと空は晴れ、太陽が雲から顔を出していた。

幼子は庭を指差しながら、隣に腰をかけている忍に懸命に話しかけた。
指差す先には、昨日までは無かった筈の、あの小さな花の姿があった。

幼子は「きっと自分と佐助に会いにきてくれたのだ」と喜び、まるで大輪の花が咲いたような鮮やかな笑顔を向けてくる。

それを愛しそうに目を細めながら見つめ、忍はこう云うのだ。

「きっとこの花も、弁丸様の処に来たかったんでしょうね」

そう笑う忍からは、微かに雨の匂いがした。
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