スマートフォン解析 政小 短編 | ナノ
あいらぶゆー
「I LOVE YOU」

唐突に呟かれた言葉は、遥か遠くにある異国の言葉である。小十郎は、瞬時に思考を巡らせ言葉の意味を探った。
南蛮に興味を示す主は、時折聞きなれぬ異国の言葉を仰ることが多い。
初めこそ、気でも触れたのではないかと不安にもなったが、どうやら本人曰く「これがCoolなんだよ」と云っている点から、格好良いとでも思って発言していることが伺える。
幼少のころ、病で爛れた右目が原因で、政宗──梵天丸は人前に姿を現さなくなった。同時に、自分の意見を述べようとはせず、意固地になって部屋にこもる始末だ。
そんな哀れな息子を憂い、彼の父親である輝宗は自分の小姓である小十郎を梵天丸のお付に任命したのだ。

そんな繋がりと思い出が、政宗に対して強く叱咤出来ない原因の一つでもあるのかもしれない。
小十郎はそう思い、小さく笑みを浮かべた。

昔の思い出に浸っていた小十郎だったが、強引に上を向かされ我に戻る。目の前には、不機嫌そうに口をへの字にした政宗の姿があった。
政宗は小十郎の顎にかけていた手を離すと、ゆっくりと小十郎の左頬に手を添えた。

「小十郎…I LOVE YOU」

またあの異国の言葉だ。
小十郎は政宗に気付かれぬように、心の中で静かに呟いた。

聞き覚えのある異国の言葉に、小十郎はどんな意味があるのだろうかともう一度思考を巡らせようとしたが、ふと政宗の顔がだんだん近づいてくるのを感じ取り、小十郎はそっと瞼を閉じた。

触れるだけの優しい口付け。
ゆっくり離されていく政宗の顔を小十郎は真っ直ぐ見据えていた。

「小十郎…I LOVE YOU」

真っ直ぐ正面から見つめ囁けば、小十郎は幼児をあやすような笑みを浮かべる。
濃厚な口付けも、それ以上の行為も「虐げて」きたというのに、目の前の右目はいまだに政宗を子ども扱いする。
そんな子供扱いが抜けない小十郎に、政宗は仄かな憤りを感じずにはいられない。

それでも、こんな笑顔を見られるだけで、満足する自分も居るわけで。

「小十郎……も、あいらぶゆうですよ」

心の中に浮かぶのは、以前政宗がまだ梵天丸だった頃。
父親から戴いたという異国の本を嬉しそうに抱えている姿であった。

『小十郎、知っておるか…』
『何のお話でしょうか?』

どんどん声が小さくなっていく梵天丸。視線を合わせるように、小十郎はその場にしゃがみこみ、くしゃくしゃと歪んで行く幼い顔を撫でた。
血豆が出来た小十郎の手は、今と比べればとても頼りない。でも、梵天丸から見れば、それは何よりも暖かい手なのだ。

梵天丸はすんすんと鼻をすすりながら、大切そうに抱きしめていた本に視線を落とすと、少しだけもじもじさせながら呟いた。

『あいらぶゆー…という言葉だ…』

***

「ところで、政宗様。あいらぶゆうとはどんな意味があるのですか?」

畳の上に押し倒された状態でも、小十郎は真剣な表情を崩そうとはしない。
この状況で真面目に云われてしまえば、苦笑いしか返せない。政宗は、小十郎の頬に手をそえ自分の方に向けさせ答えた。

「あなたになら、何をされても構わない…っていう意味だ。OK?」

逃げ腰気味の小十郎の体に覆い被さるように乗り掛かる。そして小十郎の両腕を頭の上に一纏めにしてしまえば、帯を抜き取りそれで縛り上げる。
何とも手順の良いことか。

「自分の言葉に二言は無えよな?小十郎」

見下ろす政宗の目は、獰猛な竜のように妖しい光を帯びていた。
小十郎はそれを見据えながら、こてっと首を傾げると口を開いた。

「はて、可笑しいですな…梵天丸さまが教えてくださった意味とは異なります」

懐かしい幼少名に、政宗は一瞬目を大きく見開く。
そして怪訝そうな表情を浮かべ、不貞腐れたように小十郎の上から降りると彼の隣に腰をおろした。
小十郎は起き上がろうとはせず、顔だけ政宗の方に向けると小さく微笑んだ。

「覚えていらっしゃいますか?」

その言葉の意味を察した政宗は、気だるそうに自分の頭を掻くと眉間の皺を深めた。

「覚えてるわけ無ぇだろうが…」
「なら思い出していただきたい。小十郎にあんなことを仰られたのは、あなたが初めてなんですから」

不貞腐れる政宗の姿が、引き篭もっていた幼少の頃の梵天丸の幼い姿と重なり、小十郎の笑みは更に深まった。
それは決して馬鹿にしたものではなく、とても愛しそうな笑みである。
そんな笑顔を見てしまえば、政宗もこれ以上は文句は云えない。

「…嘘だ、ちゃんと覚えてる」
「さようですか。…あいらぶゆうとは、一生一緒に居たい相手に伝える言葉だと仰っておりましたゆえ」
「……何でそんなたった一回きりの事を覚えてんだよ…っ」
「小十郎は、政宗様の事でしたら何一つ忘れることはありませぬ」

脳裏に浮かぶのは、震えた声と泣きそうに揺れる瞳。
随分大きく成長されたものだ……小十郎はしみじみそう感じた。

「…大きくなられた」
「俺だって成長するんだ、言葉だって成長するし意味も変わるんだよ。小十郎」

また、そんな横暴なと苦言しようとした小十郎だったが、政宗に唇を塞がれて言葉を飲み込んだ。

また何年かしたら、もう一度仰って下さい。
何度だって云ってやる。

I LOVE YOU
prev bkm next

[ top ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -