スマートフォン解析 政小 短編 | ナノ
見えるものと見えぬもの
時折。
小十郎は部屋の隅を眺めては、睨み付けたかと思えば目を逸らし。

小さくため息一回。

何事かと尋ねれば、少しだけ困ったように口元が緩む。何時も困った時に見せる笑みだと気づき小十郎が『其れ』を聞かれると困惑すると知ったのは、まだ自分が梵天丸と呼ばれていたあの頃の事だった。

「何が見えるんだ……小十郎」

月日は過ぎ去り、伊達家当主となった梵天丸。
名を政宗へと変え、奥州筆頭へと成長を遂げていた。
そんな彼の傍には、昔から変わらず傍に居る片倉小十郎の姿があった。

その日も小十郎は、政宗との会話の最中に何も無い空間を見つめて、心ここにあらず状態になっていた。
初めこそは何時もの事かと、政宗は小十郎が我に帰るのを待っていたのだが。
彼が自分以外に意識を集中しているのが気に食わぬのか、政宗は手にしていた扇子を広げては畳み広げては畳み掛ける仕草を繰り返していた。

──サ…………パチンッ

──サ……パチンッ

──サ、パチンッ

──サ……バンッ!!

地が微かに揺れ、震動が体を揺する。畳に何かを勢い良く叩き付ける音が聞こえ、同時に小十郎は我にかえった。同時に驚愕の様子で政宗の方に視線を向ければ、其処には明らかに不機嫌そうな主君の姿があった。

「も、申し訳ありません。政宗様」

一瞬困惑したような表情を見せ──小十郎は畳に額が付かんばかりに頭を下げた。その様子に政宗は小さく息を吐くと小十郎の頭を扇子で軽く小突いた。

頭を上げろ……無言の合図だ。
だが小十郎は頭をあげようとはせず、ただただひたすらに謝り続けた。

「小十郎……別に俺は怒ってなんかいないぜ。ちょっとだけ拗ねただけだ」

融通の利かない頭の固い家臣に、政宗は苦笑いを薄っすら浮かべながら、頭を上げろと小十郎に告げる。ゆっくりとした動作で頭をあげた小十郎は、やはり何処か困ったような表情を浮かべていた。何事かと思いながらも、政宗は小十郎の腕を引き寄せる。
抵抗も見せず政宗の腕の中に納まる小十郎は、何処か安堵した表情を浮かべている。

その様子に満足したのか、政宗は小十郎の顎に手をかけ顔を上げさせると皺の寄った眉間に優しく口付けを落とせば、見る見るうちに深くなっていく眉間の皺。
それでも政宗は満足そうに口元を緩めた。

「俺の側に居るときは、他の事を考えるな」
「はい……」

薄暗い闇の中にぽっかり浮かぶ一つの雲が、まん丸お月様を覆う。月に光に照らされていた室内は、突如優しい闇に包まれていく。
薄っすら見える互いの頬は、ほんのり赤く染まって見えた。
愛しむように小十郎の頬の傷に口付けを落とす政宗。

擽ったそうに肩を震わせながらも、小十郎はゆっくり政宗の背に腕を回した。

ゆっくり回転していく光景。

先ほどまで見えていた庭の光景は、天井へと変わっていた。
押し倒されたと気がつくより前に、政宗の顔が目の前に現れる。同時に唇が小十郎の唇を覆い、出かけた言葉は飲み込まれてしまった。
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