スマートフォン解析 政小 短編 | ナノ
挑発的
「逃げるなら逃げてもいい。ただし地の果てまでも追いかけるからな」


酒の席だった。何時もの様に仕事が終わり帰宅の準備をしている最中、酒の相手として呼ばれ政宗の自室に向かった筈なのだが。
縁側で「月見酒を洒落込もうぜ」とやんちゃな笑みを浮かべる主に、「薄着では風邪をひきます」と手にしていた羽織を政宗の肩にかけたのは小十郎であった。

何時も通りの酒の席。何時もとか異なる主君の言葉。
酔っ払っているのか──心配そうに見つめる小十郎に、毒気が抜けた政宗は、少しだけ拗ねた様子で杯に並々入った酒を一気に飲み干した。
そしてぶっきらぼうに小十郎の方に視線を向けず言葉を吐き出した。

「さっきの言葉は忘れろ」
と。
やはり酔っていたのだと安堵する反面、心がちくり痛みを感じ小十郎は「はて?」と首を傾げた。
そんな小十郎を横目で睨み付けるように見つめながら、政宗は先程告げた言葉を酒のつまみに、もう一度酒を飲み干した。

『抱かせろ、小十郎』
酔わねば告げられぬ想いを胸に抱いて。


「逃げるならとっくの昔に逃げております。むしろ貴方に囚われたくて側に居るのです」

聞かなかったフリをした。聞いていなかったフリをした。
自分から忘れろと言った主君は何処か不機嫌な様子で、まるで酔いを早めるかのように酒を飲み続けている。
その様子を窺いながら、小十郎は小さく呟いた。

「……ん?何か言ったか?」
「…………いいえ、そろそろ冷えてきましたな。お開きに致しますか?」

小十郎は誤魔化すように政宗の手から徳利を取ると、少しだけ困ったように笑った。

―――何を言っているのか……俺としたことが。

小十郎は内心焦った。
その言葉は無意識に呟かれた言葉だったからだ。

『抱きたければ抱けばいい、ずっと待っております』

―――酔いがまわったようだ。
小十郎は全て酒のせいにした。酔いがまわらねば、このような事を考えることすら無い筈だからだ。
今宵の月は人を狂わせる程に美しく、小十郎は自分の肩に頭を置き委ねる政宗の温もりを感じながら瞼を閉じた。
prev bkm next

[ top ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -