スマートフォン解析 政小 短編 | ナノ
そんな二人
春も近いのだな。
麗らかな日差しの中、馬を走らせる。頬に当たる暖かな風を受け、小十郎は春の気配を感じながら薄っすら笑みを浮かべた。
真っ白な雪で覆われた奥州。雪国の名の通り、冬の間は真っ白な雪に覆われる。他国が攻め入れない、自然界の防壁。しかしそれは、奥州の人間すらも閉じ込めてしまう程に深くも厚いモノだった。
その為。冬の間の奥州は他国との戦も出来ず、今まで溜りに溜まった書類の山を片付ける事に専念する。
全ては、いずれ訪れる雪解けに備え。
春と共に、戦場には白い雪の代わりに真っ赤な血か飛び散るだろう。
それでも奥州の蒼き竜は、渇きを訴え煮えたぎる血をもって戦場を駆け巡るのだろう。
その神々しくも痛々しい姿が脳裏に遮り、小十郎は俯き顔を顰めた。

極寒の雪に包まれたこの季節。
渇きを訴える竜の慰めモノは小十郎の役目だった。小十郎の肌に触れている間だけ、竜は心から潤い湧き出る怒りを沈着させていく。
だがしかし、小十郎とて武将の身である。この季節は奥州筆頭である政宗ほどではないが、忙しなく政務に追われる事となっている。毎日のように政宗の相手だけをしている訳には、いかないのが現実だ。
幼少の事から癇癪もちだった主は、ごねて回りを困らせていた。遠い昔の光景が鮮明に思い出され、懐かしさから口許が緩む。
そういえば、最近はようやく落ち着きを持ち始めて来た気がする政宗だが、あくまで小十郎に関する事以外で……の話だ。

昔から小十郎に対する執着心の強さは異常なものだった。
十年近く心に秘めた想いもあってか、はたまた政宗の熱心な口説きもあってか数年前に小十郎はそれを受け入れた。
真面目過ぎる小十郎が主君の想いに答えることは、極めて異常な事だった。身分の違いもさることながら、自分自身が政宗の負担になることを恐れていたのだ。しかし、政宗の想いを受け入れることにより日に日に膨張し始めた執着心が和らぐと考えた小十郎は、政宗の荒々しい程の想いを受け入れ身体を委ねた。
同時に、小十郎自身も自分の想いを誤魔化すのを止めたのだ。

しかし。想いが実るのと同時に、政宗の小十郎に対する束縛は更に強まっていった。近年では、政宗以外の人間に小十郎が笑いかけるだけで嫉妬する。その相手を叩き切ろうとした未遂事件も、そう遠くは無い過去の話。
どうしたものか。頭を悩ませ一時期離れる事を決意しようにも、納得しない政宗は小十郎を別荘に監禁してしまった。しかし小十郎自身、政宗に何をされても構わないという姿勢な上、体の自由はあるので軟禁といえよう状況である。
どうしたものかと思いつつ、軟禁されている別荘の中庭で、小十郎は白いため息をつくのであった。

―――冬の間だけでいい。
―――俺のことだけ考えてくれ。

脳裏に浮かぶのは、幼少の頃の甘え方を知らず泣くことすら出来ない不器用な政宗の姿。
ほとほと小十郎は政宗に甘い。本人にその気が無くとも、小十郎は政宗に甘いのだ。

寒い奥州の冬。
片竜はもう一対の竜が訪れる日を待ち、白い雪の籠の中で静かに過ごすのであった。
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