甲斐に遊びに行きました
「佐助!腕をあげたのう!」「まっこと佐助の作る料理は甲斐一番でござる!」
「やだよ、大将も旦那も!俺様照れちゃうじゃないの!!」
一口食べれば、信玄と幸村からの絶賛言葉。云われた佐助は嬉しそうに「おかわり」と差し出された茶碗を受け取りご飯山盛りによそる。
先程からその繰り返しだ。
「佐助!更に腕をあげたのう!」
「まこと佐助の作る料理は天下一品でござる!」
「やだよ、大将も旦那も!俺様恥ずかしいじゃないですか!!」
一口食べれば、信玄と幸村からの(以下略)
上田城では、ごく日常的な食卓の風景。それでも他国から御呼ばれした人から見れば、異様な光景である。
四国の鬼が獲ったという魚に箸をつけながら、真っ白な美味しいご飯を口に運び政宗と小十郎の二人は黙って聞いていた。
「政宗さま、魚の骨は大丈夫ですか?小骨がありますので、お気をつけください」
「That's fine.幼い頃からお前に厳しく躾けられてきたからな」
政宗は、箸で小さな小骨を掴んで小十郎に見せた。幼少の頃とは違う凛々しい主の姿に、小十郎は小刻みに身体を震わせ感涙した。
「ご立派になられた……っ」
「小十郎、お前の教育の賜物だぜ」
これも奥州では良くある双竜の食卓の風景である。
そんなこんながありまして、食事を食べ終わり皆で茶を啜っていると、政宗が徐に口を開いた。
「忍び、お前忍びのくせに料理とか作れるとは意外だな」
「そんなことはないでござる!佐助は団子作りも洗濯や掃除も得意でござる!!」
「……それは既に忍者の仕事じゃないだろ」
小十郎の静かなツッコミに、佐助は何処か遠い眼差しをしていた。
今まで誰も疑問に思ってくれなかった事をいまさら云われてしまったのだから、仕方がないといえば仕方が無いことである。
中庭で食後の運動をする政宗と幸村を見守っていた小十郎に、佐助は笹の葉で包んだ物を二つ手渡した。
「これ、おにぎり。道中お腹すいたら食べてね」
「……これもお前が作ったのか?」
「他に誰がいるっていうの?」
「……忍びのおにぎりか」
怪しげなものと小十郎の顔には書かれていたが、佐助は気にする事無く隣をおろした。
「大丈夫だって。あんた達とは同盟を結んだんだ。俺様が何か仕掛けるわけがないでしょ」
大将に怒られちゃうし、旦那も卑怯な真似を好まないんでね──
そう呟く忍びは、すでに小十郎に関心はないようで幸村の方を見つめていた。
小十郎も佐助に対する関心も薄れたらしく、ふと自分の膝の上に乗せられたおにぎりを見つめ小さく溜息をついた。
「感謝する」
「いえいえ〜。あんた達に貸し作っておいたほうが、こっちとしては儲けもんだしぃ」
「しばくぞ」
「怖い怖い、右目の旦那は短気だね」
互いに主から目を離す事無く、まるで独り言のように呟く。
そろそろ止めるべきかと、立ち上がろうとする小十郎に、佐助はようやく幸村から視線を離し小十郎を見上げた。
「あとで右目印のお野菜頂戴に参るから、宜しくね」
それが目的か。
したたかな忍びの罠にかかった右目は、苦笑いを浮かべるのであった。
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