ヘイ、ティーチャー
/初火黄!唐突に、帰国子女火神っちに萌えた。


 火神のメールは、丁寧だ。
 敬語だとか季節の挨拶だとかがいちいちあるような丁寧さではなく、日本語が、丁寧なのだ。
 普通にしていると、ついつい忘れがちになってしまうが、火神は帰国子女なのである。確かに火神の日本語力はそれを忘れさせるほどに発音も語彙もすばらしいものがあるが、例えば時たま分からない単語や日本語の表現を見付けてはスマホの辞書で調べたりググったりしているところなどに遭遇すると、それは思い起こされる。
 あとは、カタカナエイゴに微妙な反応を示していたりぽろっと漏らす英語のネイティブな発音。
 そして、これを感じているのはもしかして黄瀬だけなのかもしれないが、黄瀬は、火神とのメールのやり取りにも、それらと同じような感情を思い起こされては、火神のバックグラウンドにユナイテッド・ステイツを感じるのだ。

 [ 日曜日、待ち合わせ場所を決めていなかったけれど、どこがいい? ]

 何の変哲もない、週末の予定の確認メール。
 そんなメールを眺めて黄瀬はふと微笑まし気な笑みを浮かべる。


 [ ストバスの前に買い物いきたいから、駅前にしよ! ]
 [ 分かった。11時に駅前で会おう。昼ご飯は、お前がこの前言っていた店に行こうか? ]
 [ やった!たのしみっス〜!(^o^) ]
 [ 俺もだ。じゃあ夜も遅いから、また。仕事をあんまり頑張りすぎるなよ、おやすみ。 ]
 [ ありがと。じゃまたね!おやすみ〜(ノ∀`) ]


 えへへ、と我慢出来ずに笑って、黄瀬は寝ていたベッドの上を何往復か転がった。
 かわいい、メールの火神は、丁寧で、やさしくて、そしてかわいいのだ。
 普段のあの乱雑な言葉遣いから打って変わって、文面になると急に丁寧になる。最近の若者や、日本語が母国語である日本人が抜きがちな"てをには"の助詞を律儀にちゃんといれた文章でメールを打ってくるのだ。きっと、最初に学んだ"正しい日本語の使い方"を、今も守っているに違いない。そんな変な律儀さや不慣れさが、まんま日本語を喋る外国人のいやに丁寧な話し方に愛くるしさを感じるのに似て、こうして黄瀬は火神とメールをする度に、かわいらしいなあ、あいらしいなあ、とほっこり心に抱くのだ。
 最近では、そろそろ火神の日本での学生生活も数年目を迎え、そのあたりの日本語の崩し方・・助詞を略したり、ラ抜き言葉だったりを覚えてきたが、でもそれでも完全日本語ネイティブの人間ほどに違和感なく、とまではいかない。普段、帰国子女であることを感じさせず、馴染みすぎるほどに馴染んでいる火神の、ちょっとだけ空いた隙。それは火神の不器用さや実直さそのままを表しているようで、黄瀬は、それが、とても愛おしい。
 携帯を名残惜し気に閉じて、眠気はなかなか襲って来ないけれども無理矢理布団を引っ被る。
 明日は、デートなのだ。
 早起きして、お肌も服装も万全にして挑もう。晩をうちに誘うため、夕食の仕込みをしてもいいかもしれない。黄瀬がまだまだ、些細なことに何度だって火神に惚れ直すように、火神にだって、なんどだっていつまでだって、黄瀬に惚れていてもらいたいから。

 些細な"好き"は、至る所に。そして予想外のところに、たくさん、散らばっているものだから。



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