/セカンド・デイ

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 the daytime

 今日の予定は街歩きだ。電車でマンハッタン中心部まで渡り、なんかそれらしい所を廻る。・・・たぶん。正直、俺自身ニューヨーク観光などしたことがないので、どこへ案内すればいいのか、いまいち分からない。この地に居着いてすでに数年経つが、そう言えばちゃんと観光地に脚を伸ばした事ないような。NBAはホーム&アウェイ制なので、試合ともなれば広いアメリカ全土を飛び回る。それで随分アメリカには詳しくなったつもりでいるが、実際詳しいのと言ったら、スタジアムやアリーナ、チームの練習場周辺に限るのだ。
 ペンシルベニア駅で下車し、人のごった返す構内を抜ける。ここ、通称ペン・ステーションはマディソン・スクエア・ガーデンと建物を共にした駅である。この世界で最も有名な歴史あるアリーナで、青峰も年幾度も試合を行なっている。
 NBAの試合のみならずミュージシャンのコンサートや、又格闘技の試合などにも使われており、今晩のプログラムはボクシングのライトヘビー級タイトルマッチとの貼り出しが表にあった。
 NBAの選手特権でちょろっと会場内を覗かせてもらい、チビに、ここで試合をしているんだぞーと教える。母さんと父さんがバスケのDVD、いっぱい持ってんだろ?それに出てくる会場のひとつが、ここなんだ、と。
 ペン・ステーションの周辺はデパートやモールなど、見て回れそうなところは一杯ある。とは言っても、NYまで来て子供をショッピングに連れ出すのも味気ないので、タイムズ・スクウェアやらブライアントパークを通りつつ、ミッドタウンを北上していく。こちらへ来る前に幾箇所か廻ったと言う西海岸の風景とも、ここNYは随分違うだろう。それに世界一の歓楽街である、チビも日本と全く違う刺激的な街並に周囲をきょろきょろ見回しながら、時折雑貨屋などに入っては楽しそうにしていた。
 昼前にケーキを間食していたとは言え、いい加減腹の空きが気になり出してきた頃、俺たちはロックフェラー・センターに到着した。
 NYの摩天楼を代表するオフィス・ビル群の中心だ。そこの中央広場は、冬場はもはや名物と化したアイススケートリンクに巨大クリスマスツリーが姿を現し、その他の季節では毎日かわるがわる多種多様なイベントやオープンレストランが開かれている。そして本日の催し物は、どうやらダンスのイベントらしく、中央では今まさにグループを組んだダンサー達がコンテンポラリーダンスを披露していた。客層を見ても、出番を待機しているのだろうダンサー達を見ても、どれも服装や年齢層はバラバラでとてもフリーな空気が流れている。
 イベントに合わせて出店されている屋台に、青峰も幾度か通った事のあるハンバーガーショップがあった。ちょうど良いので、昼食はそこでのテイク・アウトにしようと三人の意見を合わせて、これこそアメリカ!というような、ビーフ100%の肉々しいハンバーガーにフライドポテト、ソーダの定番セットを3つ購入。ここアメリカには随分とゼロカロリーのダイエット炭酸飲料が浸透しているが、こんな肉まみれのハンバーガーを食べておいてなぜカロリーを気にしたダイエット・ソーダなどを飲むのか、それがいまいち俺には分からない。カロリー気にするとこ間違ってねぇか?ソーダで僅かながらのカロリーオフったって、それが無駄な足掻きだとなぜ気付かん。
 そんな戯れ言を黄瀬に訴えふたりに笑われつつ、セント・パトリック大聖堂を横目にミッドタウンを更に北上した俺たちは、セントラルパークの敷地へと脚を踏み入れる。馬鹿でかい敷地を持つパーク内で、適当な木陰を探しそこに腰を落ち着ける。ベンチに座っても良かったが、そろそろ日差しの厳しくなって来た季節、緑に囲まれ芝に寝そべる方が、きっと何倍も心地いい。
 昼飯としては、少し遅めの時刻ではあったが、今日は晩も少し遅くなる予定なので、かえって調度良かった。
 気持ちのいい風に吹かれながらハンバーガーに齧り付く。散策の最中は眩しさもあり外せなかったサングラスを黄瀬も俺も外して、大口をがぱっとあける。
 口の中いっぱいに広がる肉の旨味。そしてチェダーチーズのまろみと風味、タマネギがほんのりと辛味を添え、ケチャップとマスタードはこれ以上なく融合する。
「おいしー?」
「おいしー!」
 チビの口元に溢れる肉汁を黄瀬が甲斐甲斐しく拭き拭き。マスタードではなくマヨネーズが挟まれたバーガーを、幸せそうに頬張っていた。
「ほら、ポテトもあつあつッスよー。火傷しないようにふーってしようね」
「きーちゃんも一緒にしよー」
「んー?じゃあ一緒に、せーの、ふーっ!」
「ふーっ!」
「なーにしてんだお前ら」
「へへっ青峰っちもしてあげよっか〜?」
「だいちゃんもふーってする?」
「あぁ?いーよ俺ぁ」
「そんなこと言ったらダメっスよ!火傷しちゃうっス!」
 黄瀬が、完全に面白がってにじり寄ってくる。そしてチビまで寄ってきた日には(こちらは純粋に好意からであるからより始末に悪い)、さすがの俺も頷かずにはおれん。これがパパラッチや記者どもだったら、いくら迫られようと微動だにせずいられるんだが・・・。こいつらにかかりゃ、記者に無口・無愛想で有名な俺も、形無しだ。
「せーの、「「ふーっ!」」」
 弾けるように、黄瀬とチビの笑い声があがった。それにつられ俺もなんだか可笑しくなって、肩を震わせる。
「オラ、さっさと食いやがれ。チビ、食いきれなかったら俺が食べてやるからな。」
「うん、ありがとーだいちゃん」


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