糖分中毒


「お邪魔します」

久々に会った、中学の時に同じクラスだった黒尾の家に上り込む。
そこまで仲良かった訳ではないけれど、この前たまたまバス停で遭遇して、私が読みたいと思っていた漫画を持っていると聞いて今日の日程を組んだんだ。

「思ったより片付いてる」
「なんだよそれ」
「男子の部屋は散らかってるイメージだったから」
「イメージってお前、男の部屋行った事ねえの?」
「さあ?どうだろうね」

意味深な笑みを向ければ、少し怯んだ様子にクスリと笑みをこぼす。

「それより早く読ませて」
「へーへー」

本棚から数十冊を取り出し、私の前に置かれる。

「1日じゃ無理そう」
「だろうな」
「通っていい?」
「別に構わねえよ」
「やった」

それでは早速、と一巻を手に取った。
読んでるうちにこの空間に慣れてきて、体勢を崩していたら黒尾の大きな溜息が響く。

「お前、人のベッドに寝転がるなよ…」
「いいじゃん、楽だし」
「……大して仲良くなかったとはいえさ、」

俺も男なんだけど

2人分の体重に、ベッドのスプリングが軋む音。
見たことの無い、獣の目。
だんだん近寄ってくる唇に人差し指を当て、距離を取ることに成功した。

「セックスは無理。でもキスならいいよ」

言い終わるや否や、ふに、と唇へ柔らかい感触。
数十秒程の接触を経て離れれば、黒尾の目に自分の顔が映っているのが見えた。
そんな自分の顔は、熱に浮かされている。

「キスって、きもちいね。」

もう一度しよ。
そう言えば今度は荒々しく唇を塞がれて。
それから何度も何度も、気がすむまで唇を重ねた。


今だから言えるけれど、私黒尾の事が好きだったと思うし、黒尾も私の事を好きだったと思う。

だからこそこんなにもキスの味が、切なくて甘い。



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