好きだった


元々の目付きの悪さと、アメリカの兵士の父親に鍛えられ喧嘩も強くなった俺は、学校だって真面目に行くし授業にもちゃんと出て、テストでもそのそこの成績取り、髪だって黒いしピアスも開けてないっていうのに『不良』っていうレッテルを貼られて、中等部から通ってる学校で一人過ごしてた。そこに、陽太が来たんだ。


──お前が一匹狼って呼ばれてるやつ?めちゃくちゃかっこいいな!俺は神田(かんだ)陽太!お前の名前は?
──ありがとな!お前、いいやつだな!
──陽太って呼べよ、刻(とき)!俺たちもう親友だろ?
──みんな、刻のこと怖がって馬鹿だなぁ!全っ然不良じゃねえのに!
──……俺、刻のこと、すごい好きだ!


頭の中を、陽太のセリフが駆け巡る。
親衛隊の連中や一般生徒は陽太のこと嫌ってたが、陽太はいいやつだ。
親衛隊のせいで普通の生徒と普通に交流出来なかった生徒会の奴らに親衛隊を怖がらずに話しかけた。不良と恐れられる俺を、親友にしてくれた。他の奴らが言うように、確かに自己中心的でわがままなところもあったが、それも全部許せるほど好きだったんだ。
陽太は可愛い。だから生徒会の奴らが惚れるのも仕方がないことで。陽太は優しいから奴らを突き放せずに、親衛隊の嫌がらせを受けながらも離れなかったんだ。

最近、陽太が生徒会に篭って教室にも滅多に来なくなった。クラスで……いや学園中で、生徒会が全員陽太に落ちて仕事を放棄してるっていう噂が広がってて、このままでは陽太が悪者になると心配してたんだ。
そんな時に、生徒会に呼び出されて、嫌な予感はしてた。
そしたら案の定、ニコニコ笑う陽太と、その横に並んで上機嫌の会長。周りの生徒会の連中は、眉間にシワを寄せたり悔しそうに唇を噛んだり泣くのを堪えてたり。
それを見た瞬間、すべてを悟った。だから、何も言うな──なんて念じてみたところで、陽太は呆気なく声を上げる。

『俺っ、一臣と付き合うことになったんだ!応援してくれるよな!』

嬉しそうに弾む明るい声が耳にこびりついて離れない。
初恋は実らないなんて嘘だって言い聞かせてたんだ。親友から恋人になるなんて、ありきたりな話だろ?

……でも、現実は厳しいものだ。
陽大が会長を見るときに目を輝かすも、会長との会話は俺達に話す時より高く甘い声になるのだって知ってた。

「……陽太。…陽太。………俺も、俺だって……俺のほうが、…好きだ。……好きなんだよ…ッ!!」

伝えることすら、もう出来ない。陽太を困らせたくない。俺の告白で会長と仲違いして、お前のせいだと嫌われたくない。泣かせたくない。
頭を抱えて、両膝の間で小さく叫ぶ。

「…っそ、くそ、……くそぉ……好きだっ、好きなんだ、……………好き、だったんだ」


好き、だった。嘘じゃなく、本気で想ってた。
今までは、男を好きになるなんて考えられなくて。極普通に女が好きだったし、セックスするのだって女だけだ。でも、あいつは特別だった。陽太は、特別だったんだ──……


でも、だからこそ、……特別、だからこそ。この思いは………………



end


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