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アンチ王道主人公の言い分


「ハハッ、また頼むぜ、夕陽ちゃぁん」

 語尾に音符が付きそうなセリフと一緒に、下品な笑みを浮かべた奴らは去っていった。

「……さむっ」

 少しの間ボーッと立っていたら、ビュウっと風が吹いて両腕で自分を抱きしめた。ポツポツと鳥肌が立ってる。

「……とりあえず、帰ろう、かな」

 震えつつヨロヨロと寮に戻る俺は、梶原夕陽(かじわらゆうひ)。高校からこの中高一貫の金持ち全寮制高校に入った俺だけど、入学から半年経った今では立派ないじめられっ子だ。いや、理由は分かってる。『生徒会の皆様に近づいた』から。というのもおかしな事にこの学校、生徒の過半数がゲイまたはバイで更に容姿のいい者が崇拝されファンクラブならぬ親衛隊なるものまで存在する、正真正銘キチガイな場所だったらしいのだ。
 もちろんそんなこと入学したての俺が知るはずもなく、アホみたいに広い校舎で迷った末辿り着いた生徒会室で出会った奴らとなんだかんだで仲良くなってみたら、いつの間にか『親衛隊の制裁』と称していじめられていた。
 さらに、一月くらい前に俺の同室者の要(かなめ)が生徒会のみんなに、生徒会室は関係者以外中に入れるなとか仕事をしろとか自分は好きで梶原にひっついてるわけじゃないから睨むなとか親衛隊ときちんと話をしろなんて説教かましたことで俺を制裁から守ってくれてた彼らが離れて行き、今ではこのざまである。

 ただ言いたいのが、俺だって仕事しなくて良いのかって聞いたけどみんな余裕だって笑ってたし、生徒会室に入れる許可はしたって会長が言ってたし、要だって俺が無理矢理連れ回してるみたいな言い方してるけど、一度だって嫌だって言われたことなんかなかったんだ。いつも食事に誘うと顔が曇るのはわかってたよ。でも、無理しないでいいぞ?って聞いても大丈夫だって頷いてたよな?

 まあ、こんなこと言ったってなんの言い訳にもならないんだろう。実際生徒会のみんなは仕事をあんまりしてなかったみたいだし俺は生徒会室に入ってはいけなかった訳だし、要は嫌がってたんだ。
 余裕だって言ってたからそうなんだって思ってたけど、確かに生徒会室の机の書類は増えることは無かったけど減ることもなかったかもしれない。もう少し強く言うべきだったのかもしれない。

 でも、お前らも少し酷くないか?
 確かに俺はこの学校のルールをよく知らなくて、それに反したことをしたかも知れない。でもみんな、俺が聞いても『夕陽は今のままでいい』って言って説明してくれなかったじゃないか。俺だって馬鹿じゃない。説明してくれればちゃんと理解して、行動だって自重した。お前らと食堂で飯食うとき睨まれてた理由だって、この学校の恋愛事情だって、制裁に来た親衛隊に聞かされて初めて知ったんだぜ。

「やってらんねーなあ」

 全部、俺が悪いってみんな言う。生徒会の皆様を誑かしたって。でもさ、誑かすってなによ。生徒会のみんなはバイだって言ってたけど、噂で流れてるみたいにキスだってセックスだってしてない。友達なんだからそりゃ部屋に泊まることだってあるだろ?その時だって朝まで対戦ゲームしてただけだよ。
 俺達に色気なんか無かったよな?普通に馬鹿みたいに騒いで大笑いして、お前の前だと素で居られるって、楽だって言ってくれたよな?

「なんなんだよ、もう」

 なんとか辿り着いた部屋にはいって浴室に向かう。途中でリビングに居る要と目があって、なんかびっくりしてたみたいだけどすぐに脱衣場のドアを閉めた。服を脱いで、シャワーを頭から被る。
別に、ケツに突っ込まれただけだ。俺は男だ。汚れただとか死にたいだとか、思ってるわけじゃない。ただ、もう潮時なのかなって、思った。
 太ももを伝う、ドロっとしたモノが気持ち悪い。シャワーを被ったまま、そこに指を突っ込んだ。裂けてるそこはすごく痛いけど、不快感のほうが強い。ぐちゅぐちゅいうそこが気持ち悪くて、早く掻き出したくて指を動かす。

「いっ、てー……」

 下を見ると水と白濁と一緒に薄い赤色が流れる。やっぱり血、出てるし。
 そういえばあいつら、またって言ってたけど、なんだそれ。
 これってまたあんのかよ。ありえないだろ。
 ブツブツひとりごと言う俺は不気味だろうけど。誰も見てないから、いいや。

 全部掻き出して、体洗って。着替えとか持ってきてないからバスタオル腰に巻いて部屋へ戻る。
 その時ちょうどリビングから出て来た要と鉢合わせた。

「あ、……その、かじわ「やー、あはは。ごめんごめん、着替え持ってくんの忘れてさ。すぐ服着るからさ」」

 要の言葉を遮って部屋へ入る。要が悪いわけじゃない。それは知ってる。むしろ、俺に恋愛感情を抱いてた生徒会のみんなに疎ましく思われ睨まれてたらしい要は被害者だ。分かってる。全部わかってるけど、今はダメだ。お前のせいだと、責め立ててしまいそうになる。それはしたくない、から、今は要を見ちゃいけない。

 髪も乾かさず服も着ないで、ベッドに上がり布団に包まった。
 真っ暗な部屋の中で、真っ暗な天井に浮かぶ蓄光シールを見上げる。アイツらが、俺の部屋があんまりにも殺風景だからって貼ってくれた月とか星とか地球とかの、暗闇の中でも光るシール。

「なんだかなあ」

 一体、誰が悪いんだろう。ここの常識を知らなかった俺か、教えなかったアイツらか、アイツらを虜にした要か、制裁をする親衛隊か、俺を犯した不良か。

「腐ってんのかな」

 多分、俺も要もアイツらも親衛隊も、みんな、みいんな、腐ってるんだ。自分は悪くないと、他人のせいにして、それで傷つく人間がいても見向きもしないで、当たり前のように息をする。

「そんな奴がひとり死んでも、誰も何も感じないんだろうなあ」

 ざまあみろとは、思うだろうけど。


(多分この後転校か自殺か自殺未遂か信者再取得か復讐かするんだと思います)


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