※現パロ
※大学生
※ちょっとアルアニ要素あり
「さみー…」
白い息を吐いて忌々しそうに傍を通ったカップルを睨む。
折角のクリスマスだというのに、ジャンはついていなかった。コニー、サシャ、マルコ、ライナー、ベルトルト、クリスタ、ユミルという同期でクリスマスパーティーを行なっている。現在進行形で。よくありがちな話だが、パーティーが盛り上がれば飲み物、お菓子が足りなくなる。それをじゃんけんで負けた者が買いに行くというルールだったのだが、ここで負けたジャンはある意味空気を読めているのかもしれない。
「っざけんなよ全く。この量を一人でかよ」
スマホを見れば、コニーから送られてきたメールに買い出しの内容が書いてある。ポテチにじゃがりこ、オレンジジュースにコーラその他諸々。自転車で来ているが、この量は面倒くさい。
「…ミカサ、来ねえのかな」
なんて女々しい奴だと自分でも思うが、人混みでついあの黒髪を探してしまう。
こういうイベントの時にエレン、ミカサ、アルミンはいつも来なかった。それはエレンの家で小さい頃からパーティーをしているのが決まりのようで来ないのだ。
「…今回は来ると思ったんだけどな」
ジャンはジャケットの襟を立てて、なるべく顔が隠れるようにした。
今年はアニが勇気を出してアルミンを誘い、デートに出掛けたのだ。いつまで経ってもアニが素直にならないで渋った為、周りが気を使って遊園地のペアチケットを渡したのだった。照れくさそうにそっぽを向いたアニの表情は、今でも覚えている。
アルミンがいない、ということはエレンとミカサも来るのではないかと期待したが、結局来ないようだった。
「…あれ、ミカサ?」
公園を通り掛かったその時に、見覚えのある後ろ姿がベンチに一人座っていた。いやまさか、自分があまりにも会いたいと思って似ている人がミカサに見えただけなのかと疑い、もう一度見たがあれは間違いない。ミカサだ。髪型は特徴がある訳ではないが、いつもの赤いマフラーを付けている。何か、急に熱くなってきた。落ち着け、普通に声を掛けるだけだ。自転車を公園の入り口に止め、そろりとミカサのところに歩く。
(あ、その前に自販機で飲み物を買ってやろう。寒いだろうから。)
と近くにあった自販機でココアを買い今度こそ、ミカサに近付く。缶が暖かく指にじんと響く。
「よ、よぉミカサ」
やべっ、声が裏返った。恥ずかしっ。
「…ジャン?」
黒髪が揺れてジャンを見た。ジャンは先程感じていた羞恥が消え、息を呑んだ。何故なら、ミカサの表情は泣きそうに膝の上で両手で拳を作っていたからだ。手袋もしていない手は驚く程、白かった。
「…隣いいか?」
「うん」
ミカサはベンチの中央に座っていた為、少し横にずれてジャンが座る分だけのスペースを作り、ジャンは隣に座った。
「ほらよ」
「…ココア?」
「寒いからな。…もしかして甘いのは嫌いか?」
「ううん、ありがとう」
カチリと缶を開けると暖かそうな湯気が昇る。ミカサは少し口を付けて飲んだ。温かいココアが身体を巡ったようで、少々震えていた身体が収まった。
「何かあったのか?」
「…そんなことは、ない」
「嘘つくならもう少しましな顔をしてからにしろ」
「そんなに酷い?」
「あぁ、真っ白だ」
缶を握ったミカサの手が震えた。ジャンは何となく、ミカサが落ち込んでいる予想がついていたがあえて聞いた。
「エレンが、今年は他の大学で出来た彼女とクリスマスを過ごすと言った。その女を家族に、紹介するとも言った」
「…」
やっぱり予想は当たったが、その先が気になるので余計な口は挟まないでおく。
「それは、本当は良いことだから喜ばなければならない。けど、まだ出来ない」
「当たり前だろ、そんなん。ずっと好きだった奴がいきなり他の奴とくっついたら、応援なんて出来やしねぇ」
「ジャンも、同じ気持ちになったことがあるの?」
お前のことだよと言える程、ジャンはまだ大人ではなかったから、その言葉を呑み込んだ。
「ま、まぁな。若気のいたりってやつだ」
「…そうなの?」
「いや、まぁ、そんなん気にするな」
「分かった…ジャン、寒い?」
ぎくりとした。確かに声は少し震えていたし、もぞもぞしていた。何と恥ずかしい。気を使っている筈が逆に使われている。
「はい」
「…それ、飲みかけじゃねぇか」
「私は気にしない。それにジャンは寒くて震えている」
有無を言わさず、ココアの缶を押し付けられたのでジャンは渋々手に取った。まだ温かいが、それよりもミカサの飲みかけであるという事実に胸が高鳴った。
「う、う、美味いな!」
「ココア、好きなの?」
ミカサの飲みかけだから、とは言えない。実を言えばテンションが変に上がって味など、あまり分かっていないで飲んでいる。
「…ありがとう」
「え?」
「ジャンが話を聞いてくれたから、楽になれた」
ジャンはごくりと息を呑む。今までそんな柔らかい笑みで見つめられたことはなかった。
今、この長年の思いを告白をしたらミカサは振り向いてくれるだろうか。エレンのことで傷心しクリスマスという絶好の機会なら。
けれど
「ミカサ、今から空いてるか?」
「空いて、いるけど」
「コニー達とクリスマスパーティーしてんだよ。良かったら来ねえか?」
「…途中から参加しても大丈夫だろうか」
「そんなん気にする連中じゃねぇよ。行くぞ」
ミカサの手を少々強引に引っ張れば、特に抵抗もない。そのまま歩き出すとミカサが後ろから小さくお礼を言うのが聞こえた。どさくさに紛れて繋いだ手はずっと繋いだままで、でも離したくない。繋いだ手に集中が行ってしまって、返事が出来なかった。
ジャンは気付いた。ミカサのことは好きだが、まだミカサの心からエレンは消えていない。消えてからじゃないと、嫌だった。それに仮に告白してもまだエレンが好きだから、とフラれていただろうし、そういう風な彼女が好きなのだ。
だから今日は、ここまでにしておく。ジャンに恋の春が来るのは遅くなるだろうが、それでも構わないと思った。