ちゃんと、好き。[セカコイ:トリチア] ※2012告白の日記念『今日、5月9日は告白の日だそうです。』 テレビからそんな音声が聞こえてきたのは すでに1日が終わろうとするタイミングだった。 『今日という日をきっかけに テレビの前のみなさんも大切な人に 告白をしてみてはいかがでしょう。』 「告白ねぇ…」 俺、吉野千秋はそんなテレビからの 問いかけに、盛大に唸った。 告白。 そういえば、俺はトリにちゃんと 言ったことがあったかな? いつもトリからはもういいよってくらい 好きという言葉を貰うけれど… 俺は…いつも曖昧に告げるだけで きちんとした告白なんてしていない気がする。 「トリは…どう思ってるんだろう。」 俺がちゃんと好きだって言わないこと。 トリは基本的に、 俺に言葉を求めることは無い。 だから俺も今まで言わなかったし、 それでも気持ちは伝わっていると思っていた。 『やっぱりね、言葉って大事ですよ。 以心伝心も素敵ですけど、 やっぱり言葉にしてもらえるのは とっても嬉しいですから。』 テレビの言葉が胸に突き刺さる。 トリに好きだって言われたら、 やっぱり嬉しい。 恥ずかしいけど… それでも伝えてくれる言葉は 俺を幸せにしてくれる。 「…トリ。」 気がつけば俺は携帯を手に取っていた。 呼び出しなれた相手を呼び出す。 『…吉野?どうしたんだこんな時間に。』 電話に出たトリは 心底驚いたような声で俺に尋ねる。 「えっと…あのさ…」 『なんだ?』 俺は時計を確認する。 時刻は11時30分を過ぎたところ。 早くしないと…早く言わないと… 口実がなくなってしまう。 「あ、あの…」 『なんなんだ一体。 なんか今日おかしいぞお前。』 「お、おかしくない…」 『もしかして…何かあったのか?』 「違うんだ…その…」 『…待ってろ、今から行く。』 「あ、トリ!ちょ…」 俺が止めようとしたときには すでに電話は切れてしまっていた。 どうしよう… トリが来て理由を問いただされたら… まさか「好き」の言葉を言うためだけに あれだけ躊躇っていたことを 自白しなければならなくなってしまう。 …恥ずかしすぎる!! いっそ、逃げるか… いや、でもそんなことしたら大騒ぎに… そんな葛藤をしている内に 玄関のドアが開く音がした。 「吉野…!」 そしてすぐにトリが飛び込んできて いきなり抱きすくめられる。 「と、トリ…」 「無事か?ほんとに何もないのか?」 心配そうに尋ねてくるトリに 申し訳ない気持ちがこみ上げてきた。 「うん…ほんとに何もない。」 「…そうか。よかった。」 やっと安心してくれたのか、 トリはそっと俺の身体を離した。 そして、柔らかい表情で俺を見つめる。 「それで、用件はなんだったんだ?」 「あ…えっと、それは…」 改めて、自分がトリに告げようとしていた事を 思い出して、顔が赤くなる。 「千秋。」 トリがそっと俺のほっぺに手を添える。 そのあったかさとトリの声が少しだけ勇気をくれる。 「あの、さ…今日何の日か知ってる?」 「今日?5月9日… 何かの締め切りだったか?」 「違うよっ!…その、 語呂合わせで…あれだよ。」 恥ずかしくなって、トリの胸に顔を埋める。 「…告白の、日なんだって。」 「…告白の日。」 トリは驚いたように呟いた後、 そっと俺の頭を撫でてくれた。 「それで…俺、いつもトリに言って貰って ばっかりだから…ちゃんと言おうと思って。」 「だから電話してきたのか?」 こくんと頷くと、馬鹿だなって笑われた。 ほんと、恋人に好きっていうだけで こんなに大騒ぎにしてしまうなんて馬鹿すぎる。 けど、俺にとっては本当に 一大決心だったんだから理解して欲しい。 「なら、ちゃんと聞かせて。」 甘い声に力が抜けてしまいそうになる。 けれど、へたれている場合じゃない。 時計を見れば、もうすぐ日付が変わってしまう。 「トリ…」 目頭が熱くなって、身体中が 心臓になったみたいにドクドクと跳ねる。 「お、俺… トリのこと、好き…だ…」 「…ありがとう。」 やっと言えたその言葉に、 トリは本当に嬉しそうに笑った。 その顔を見て、俺もどうしようもなく 嬉しくなってしまうんだ。 「俺も好きだよ、千秋。」 「…うん。」 「好き。」 「…わかってるって。」 「大好きだ。」 「もういいってば!」 何度も繰り返される『好き』に翻弄されながら、 俺は翌日の朝までその言葉と体温に溶かされていった。 そして、朝。 隣で眠るトリの顔を見て、もうちょっとだけ、 言葉で伝えて見ようなんて思ってみたりしたんだ。 *END* 120509 更新 [戻る] |