第6幕『純情な迷子と紳士なチェシャ猫』 ミサキは必死にウサギの後を追いましたが 追いつくことができません。 ひたすら走っているうちにウサギを見失い、 気がつけばミサキは 森の中ですっかり迷子になってしまいました。 「…どうしよう。」 ミサキは宙を仰いで途方に暮れます。 すると、突然背後から声が聞こえました。 「どうしたの?迷子?」 「え!?」 驚いて振り向くと、 木々の間に2つの明かりが浮かんでいます。 「な、なに…」 ミサキが得体の知れないそれに怯えていると、 その2つの明かりがだんだんと近づいてきます。 そしてそれはだんだんと輪郭を持ち、 ネコの耳を生やした男の人の姿になりました。 「うわ!」 「あぁ、驚かせてしまったかな?ごめんね。」 ふわりと微笑みながら現れたその人物に ミサキは思わず目を奪われてしまいます。 「あ、あの…」 「僕はチェシャ猫のキョウ。君は?」 優雅に自己紹介をしてくるキョウと名乗る チェシャ猫に、ミサキは慌ててお辞儀をします。 「あ、あの俺ミサキっていいます。」 「ミサキ君か。 こんなところで何をしているの?」 優しく尋ねてくれるキョウに ミサキは心なしか安心して、 自分がここに来た経緯を話しました。 「そう、ウサギを追ってここに、ね。」 ミサキの話を聞いたキョウは ふむ、と腕組みをして微笑みを浮かべます。 「多分、ウサギはこの先に いるんじゃないかな?確かいつも マッドハッター達とお茶をしてると思うけど。」 「マッドハッター?」 今度はイカレ帽子屋などという名前が出てきて ミサキはますます混乱します。 「あぁ、いつもウサギと眠りねずみと 一緒にお茶会を開いているからね。 そこに行けば会えると思うよ。」 「そうなんですか。 じゃあ…そこへ行ってみます!」 ミサキはキョウにぺこりと頭を下げて 指し示された方向へ歩き出そうとします。 けれど、そちらは木々が生い茂り、 とても通れるような状態ではありません。 「あ、あの…」 ミサキは立ち止まり、キョウを振り返ります。 「ん?」 「こっち…道がないんですけど。」 「あぁ、そうか。」 キョウがこくりと頷いて、 するりと森の一部を指差すと、 あっという間に、そこに道が出来ました。 「わぁ!すごい!!」 「ふふ、これくらいお安い御用だよ。」 おまけにとばかりに、キョウが指を鳴らすと 出来た道がキラキラと煌きました。 「うわあ!!キョウさん凄い!!」 「喜んで貰えて嬉しいよ。じゃあ頑張って。 またどこかで会えるといいね。」 そういうと、キョウはまるで 煙のように消えてしまいました。 「え!?」 ミサキは目をごしごしと擦って もう一度、あたりを見回しましたが キョウの姿はどこにもありませんでした。 「キ、キョウさん…?」 ミサキは狐に抓まれたような気分に なりながらも、キョウが作ってくれた道を 進むことにしました。 ウサギとマッドハッター、そして 眠りねずみがいるという、お茶会の席へ。 第7幕→ [戻る] |