第4幕-純情なお花畑で合唱を | ナノ


 第4幕『純情なお花畑で合唱を』


ウサギを追いかけていくうちに
ミサキはとても綺麗な花畑に辿り着きました。


「うわぁ…すげぇ綺麗だ。」


思わず足を止めてミサキは
あたりをきょろきょろと見渡します。

すると、どこからともなく声がしてきました。


『なんだあいつ。変な格好だな。』

『そうかしら。私にはとても可愛く見えるわ。』


「え!?誰!?」


突然聞こえてきた声にミサキは驚いて
周りを探しますが、そこにあるのは花だけです。


「…疲れて幻聴まで聞こえ出したのかな。
 はやく帰りたいよ兄チャン…」


『幻聴だって。コイツ馬鹿だろ。』

『ミズキ、ひどいことをいうものでは
 ありませんわ。そこのあなた、
 わたしたちはここですわよ。』

「やっぱり聞こえた!」


今度こそミサキは声を頼りに振り返ります。
しかし、やはりそこにあるのは花だけ。

と、思いきや、そこにはとても小さい
妖精のような男女の2人組がいました。


「き、きみ達が喋ってたの?」

「なに、君、目まで悪いの?」


ミサキの問いかけに男の妖精の方が
気だるそうに返します。


「なっ!?」

「ミズキ!ごめんなさいね、ミズキは
 口が悪くて。喋ってたのは私達よ。
 ちなみに私の名前はカオルコ。」

「ミズキさんにカオルコさん?」


かわって、女の妖精はミサキに
丁寧に説明をしてくれたので
ミサキはやっとその妖精たちの名前を
知ることが出来ました。


「それで君たちは…えっと妖精なの?」

「そうよ、私達は花の妖精。
 ここで毎日歌を歌って暮らしているの。
 そういうあなたは何の妖精なの?」

「見たところ、木の妖精でも
 水の妖精でもなさそうだけど。」


カオルコの問いかけに重ねるように
ミズキが訝しげな視線でミサキを見定めます。


「え、えっと…」

「まぁ、いいわ。ねぇ、ミサキ。
 一緒に歌を歌いましょうよ。」

「歌!?」


いきなりの誘いにミサキはとても驚きます。
しかしカオルコはそんな戸惑いを
もろともせずにパタパタとミサキの肩に飛び乗りました。


「あ、あの俺ちょっと人っていうか…
 そのウサギを探してて。」

「そんなのどうでもいいですわ!
 さぁ、ご一緒に。」


まともだと思われたカオルコも
やはり変わり者だと気付いたときには
時すでに遅し。


カオルコはそれはそれは
美しい声で歌い始めました。

その美声に、ミサキは思わず聞き入ります。


「この程度でそのマヌケ面?
 ほんと君ってダメなやつっぽいよね。」


そんなミサキに、ミズキは毒を吐きつつ
カオルコの歌にあわせる様に歌い始めました。


カオルコの声だけでもとても美しかった歌声が
ミズキの声が合わさることで
さらに素晴らしいメロディーへと変わります。


いつの間にかミサキも誘われるように
歌いだしていました。


「ミサキ、とても上手だわ。」

「まぁ、僕達には到底叶わないけど。」

「そ、そうかな。」


すっかり楽しくなってきたミサキは
本来の目的をすっかり忘れて
再び、2人と歌い始めます。


しかし、背後からいきなり肩をがっと掴まれ
驚きのあまり声が出なくなりました。


「っ!?」

「お前、俺を追いかける気はあるのか。」


絶句したまま振り返ると、
そこにはまたしてもウサギがいました。


「あ…!」

「あ…!じゃないだろ。
 お前という奴はすぐに脱線する。」

「だ、脱線!?」


図星をつかれたミサキですが、
すぐに理不尽な追いかけっこを思い出し
ウサギの手を掴もうとします。

しかし、ミサキの伸ばした手は
あと一歩というところで
ウサギに避けられてしまいます。


タタンッ、と身軽にミサキの手をかわした
ウサギは首から提げていた懐中時計を見て
『時間が無いな』そう呟いて、また駆け出します。


「あー!もう!なんなんだよあいつは!」


ミサキはだんだんウサギを追いかけるのが
馬鹿らしくなってきました。

そもそもあのウサギに頼らずとも
誰か他の人に帰り道を聞けばいい、

そう思ったミサキはさっそく
カオルコとミズキに尋ねました。


「ねぇ、カオルコさん、ミズキさん。
 俺自分の世界に帰りたいんだけど
 どうやったら帰れるかな?」

「自分の世界?なにそれ?」

「何を言ってますの?おかしなミサキ。
 そんなことよりもっと歌いましょう?」


しかし、カオルコもミズキも
ミサキの質問に答えることは無く
さらに歌を歌おうと誘ってきます。


ミサキはこの2人に尋ねることを諦めて
追いかけてくるカオルコから逃げながら

さらに森の奥へと進んでいきました。


第5幕


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