第3幕-純情な双子のお話劇場 | ナノ


 第3幕『純情な双子のお話劇場』


ミサキが流れ出した
ドアの向こうはなぜか本物の海でした。


「ええ!?」


波に揺られる小瓶の中でミサキが驚いていると、

遠くに見える陸地で、
さきほどのウサギが歩いているのが見えました。


「見つけた!くそっ!
 あいつのせいでこんな目にあったんだから
 一言文句言わないと帰れねーっつーの!」


どうにかして陸地に近づきたいミサキは
意を決して小瓶から飛び出そうとしました。

しかし、そのミサキの意思を汲むように
小瓶はゆっくりと陸地へと流れていきます。


「え?なんで?」


ミサキは不思議に思いましたが、
この大海原を小さな身体で泳ぐ自信もなかったので
そのまま小瓶と一緒におとなしく運ばれることにしました。


そして、陸地に到着すると、小瓶から這い出し
ウサギが消えていった方向へと歩き始めました。


「絶対、文句、言ってやるんだ!」


小さな身体で息を切らしながら
どんどん進んでいきますが、

森の中に入った途端、
ウサギが進んだ方向が分からなくなりました。


「どっちだろう…」


きょろきょろとあたりを見渡しても、
ウサギの姿は見えません。


ミサキが手当たり次第に草陰や木の後ろを覗いていると
急に目の前へ2人の人間が飛び出してきました。



「わぁ!?」


驚きのあまり、後ろにひっくり返ったミサキを
片方は楽しそうに、片方は心配そうに見つめてきます。


「あ、あんた達誰だよ!」

「俺たちか?俺たちは双子のトゥイードル兄弟だ。」

「僕が弟のノワキ、こっちが兄のヒロキです。」


「へ?双子?」


説明されたミサキは首をかしげます。
なぜならどうみてもその双子は似ていませんでした。


「双子なのになんで似てないんですか?」


たまらずに尋ねたミサキに、
ヒロキとノワキは顔を見合わせます。


「なんで似てないかだって?
 当たり前だろ、だって双子なんだから。」

「へ?でも双子って普通顔がそっくりで…」

「おかしなことを言う子ですね。
 双子が似てるなんておかしな話です。」


2人の言葉に困惑するミサキでしたが、
ふとあのウサギの言葉を思い出しました。


『あべこべで、おかしなことが当たり前な世界。
 けれど生きるものすべてが純情で煌めいている。
 それをその目で見てみたいとは思わないか?』


もし、これがあのウサギの言っていた
あべこべでおかしなことなのだとしたら…

本当に自分は違う世界へ来てしまったのかもしれないと
ミサキは一気に慌て始めました。



「じ、じゃあ急いでるんで俺はこれで!」

「待てよ。」


駆け出そうとしたミサキはヒロキに腕を掴まれます。


「なに…?」

「まぁ、そう急がずに俺たちの話を聞いて行けよ。」

「そうですよ、急いでもいいことなんてありません。」


笑顔で言うノワキですが、ミサキの不安は
その程度では消えません。


「で、でも俺…やっぱり急ぐから!」


ヒロキの手を振りほどいて、
ミサキは走り出そうとします。


「あーあ、もったいない。せっかくの
 素晴らしい純情話なのにな。」

「聞かないなんて人生無駄にしてますよね。」


けれど、2人のその言葉にミサキの足は止まりました。
こんなおかしな人たちが話すお話。

それを聞いてみたい気もするのです。
元来、好奇心が強いミサキは揺れ動きました。


「キラキラ煌めく純情話。」

「真実の恋のお話。」


煽るように続ける2人に、ミサキはついに
進行方向をくるりと変えて、元の場所に戻りました。


「そ、そんなに言うなら少しだけ…」

「そうか聞きたいか、なら聞かせてやる。」


そういって、ヒロキとノワキが語り始めたのは
ある大学助教授・カミジョウと研修医クサマの
出会いのお話でした。


大好きな幼馴染に失恋したばかりのカミジョウ
その涙に一目ぼれしたクサマ。

はじめはしつこく付き纏うクサマを
うっとおしく思っていたカミジョウも

いつしかクサマに心を開いていき、
2人は無事恋人同士に。

それからも紆余曲折ありながらも
純情な2人の愛のお話はミサキを大いに感動させました。



「すっごいよかったです!」

「だろ!この話のよさが分かるとは
 お前なかなかだな。」

「ええ、純情な心の持ち主なんですね。」


すっかり素晴らしい話の虜になっていたミサキは
背後にいる存在に気づきませんでした。



「おい、俺を追いかけるのはどうなってる。」

「ぎゃ!!」



気が付けば、ミサキの背後にはウサギがいました。


「あ、てめぇ!人をこんな変なとこに
 連れてきやがって!」

「何を言う。ヒロキとノワキの話を聞いて
 感動してたじゃないか。」

「そ、それは…」


嬉々として聞いていた以上、そこは否定できませんが
それとこれとは別問題です。


「と、とにかく家に帰らせろよ!」

「それなら俺を捕まえてみろ。」


掴み掛ろうとするミサキをひらりと避けて
ウサギは再び駆け出していきました。


「くそぉ、また追いかけっこかよ!」

「おい、お前。今度はナカジョウとカザマの話を…」


ヒロキがそう話しかけましたが、
ミサキは今度こそ止まることなくウサギを追い
駆け出して行ったのです。


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