7st Word-よ- | ナノ


 ようやく手に入れた大吉
※桐嶋禅×横澤隆史


「おにいちゃーん!パパー!はやく!!」

「ひよ、そんな風に走ると転ぶぞ?」


目の前をぱたぱたと走る小さな姿に
少しハラハラしながら、その後をついていく。


「そうだぞ、ひよ。ママに心配かけるなよ。」

「ママっていうな!」

「そうだよ!お兄ちゃんはママじゃないよ!」


後ろからついてくるのんびりとした男に
振り向いて鋭い視線を送るけど、
相変わらず飄々とした態度でかわされる。


「おーおー。新年から怖いな。」

「誰のせいだ。」

「さあ?」


「もう!お兄ちゃんもパパも早くって
 いってるのに!」


いつもの言い争いになりそうなところに
先行していたひよが戻ってきて

俺と桐嶋さんの手をその小さな手で掴む。


「こうしていけば早いよ!」

「ひ、ひよ…これはさすがに…」


恥ずかしすぎる光景に思わず抗議の声を
上げかけたが、桐嶋さんの声に邪魔される。


「おー、いいな。家族っぽい。」

「ふふ。」


その言葉に本当に嬉しそうに笑うひよを見てしまえば
もう何もいえなかった。


通り過ぎる人たちの視線が突き刺さる中
俺達が目指すのは近所の神社。

桐嶋親子が毎年、初詣に出掛けている場所らしい。



「今年はおみくじ何がでるかなぁ。」

「去年は何だったんだ?」


俺と桐嶋さんの間でご機嫌に歩いていた
ひよに尋ねると、その可愛らしい口を尖らせる。


「去年はね、小吉だったの。」

「そうか。」

「あ、俺は大吉だったぞ。」

「あんたのは別に聞いてねぇよ。」


ひよとの会話に割り込んでくる桐嶋さんに
うんざりとした顔をむけると

つれないだの冷たいだのブーイングをしてくる。


「お兄ちゃんは去年初詣でおみくじ引いた?」

「いや、俺はおみくじは引いてない。」

「ええ!?どうして?」


ひよは心底不思議そうに俺を見上げてくる。

正直理由はいいたくない。
ひよだけならまだしも、隣には絶対に
その話で俺をからかってくる男がいるからだ。

だから…


「おみくじは信じないことにしてるんだ。」

「ええー。今年はひよと一緒にひいてくれるよね?」


子供独特の無邪気な要求に首を横には触れない。
引きたくはない…ないけれど…


「あぁ。そうだな。」

「やった!お兄ちゃんと引いたら
 ひよ大吉な気がする!」

「そうかー?案外横澤と一緒に引いたら
 凶とか当てそうだけどな。」

「っ…」


桐嶋さんの一言に、過剰反応してしまう。
その動揺をこの人が見逃すわけもなかった。


「そんなことないよ、ね。お兄ちゃん。」

「あ、あぁ。」

「ふーん。」


にやにやと俺のほうを見てくる桐嶋さんに
ひよさえいなければ舌打ちをしたい気分だった。




神社に到着して、先に参拝を済ませる。
賽銭を放り込んで、手を合わせてから思う。


今年は何を願えばいいんだろう。


今までは…あいつのことばかり願っていた。


政宗が振り向いてくれるように。
政宗が傷つくことがないように。


けれど、今の俺がそれを願うのは違う気がする。

なら仕事のことを願えばいいのか、
けれどそれもしっくりこない。


考えながらふと隣を見ると、
桐嶋親子は真剣に目を閉じていた。


その姿を見て、思いついたことを願う。


『この親子がいつまでも
 幸せでいられますように。

 ひよの願いが叶いますように。

 桐嶋さんのも…神様が暇なら
 まぁ、叶えてやってください。

 そして…この親子のそばに
 出来るだけ長く…いられますように。』



願い終わって目を開けると
すでに桐嶋さんとひよは目を開けて
こっちを見ていた。


「!?」

「お兄ちゃん、お願い事長かったね!
 たくさんお願い事したの?」

「いや…その…」

「めちゃくちゃ真剣な顔してたしな。
 仕事中よりも真剣に願う願い事ってなんだろうな?」


ひよの無邪気な追求と桐嶋さんの
にやにやとした意地の悪い追求に胃が痛くなる。


「な、なんでもねぇよ!」


居心地の悪くなった俺は慌ててその場を離れた。


「あー、お兄ちゃん待ってよー!」

「照れちゃって可愛い奴だな。」


桐嶋さんの言葉は無視して、
どうにか話題を変える。


「ひよ、おみくじ引くんだろ?」

「あ、そうそう!あのね、あっちにあるよ!」


そういってひよは俺の手をつかんで
おみくじのあるほうへと引っ張っていく。


この神社のおみくじはシンプルに
箱から1枚を選ぶタイプだった。


「んー、私はこれにする!」

穴に手を突っ込んだひよが1枚を
選び出して取り出す。


「ほら、お兄ちゃんも!」

「あ、あぁ…」


箱を目の前にしてためらう。

正直なところ、俺は今までおみくじで
凶しか引いたことがない。


凶しかはいってねぇのかよと
疑いたくなるが、一緒にいった人間は
中吉や大吉を引いていた。


「ほら、ひよが期待してるだろ。」


戸惑っていた俺の手を桐嶋さんが
強引に掴んで1枚選ばせる。


「ちょ、待てって。」

「待ちません。」


桐嶋さんはさっさと自分の分を選んで
箱から手を引き抜いた。

俺は選びなおすのもなんだか癪で
結局最初につかんだおみくじをそのまま
引っ張り出した。


「あ!見てお兄ちゃん!大吉!」


開けるのをためらう俺とは対照的に
ひよは開封したおみくじを見て
ぴょんぴょん飛び跳ねる。


「よかったじゃないか。」


この機嫌のよさなら俺のおみくじは
開かなくて済むかもしれない。

そう思っていたのに、そうさせてくれないのが
桐嶋禅という男だった。


「お前は何なんだ?」

「そうそう、お兄ちゃんもはやく開けて!」


急かしてくる2人に逃げ場がないことを悟り、
一度ぐっと目を閉じてから震える手で
おみくじを開いていく。

けれど、途中で止まってしまう。
俺がもしいつもどおり凶を引いていたら
ひよは悲しい顔をするんじゃないだろうか…


そう思って開けずにいると
桐嶋さんがおもむろに俺に近づいて耳打ちをした。


『俺を信じて開いてみろって。』


その甘い声にびくりと背筋が震える。

「…くそっ。」

その声に何故だか逆らえなくて
勢いでおみくじを一気に開いた。



「嘘…」


そして俺の目に飛び込んできたのは
【大吉】の2文字。


「わぁ!お兄ちゃんも大吉!!すごぉい!」

「あ、あぁ…」


手元の2文字が信じられなくて
思わずおみくじを凝視してしまう。


「言っただろ?俺を信じろって。」


小声で囁いてくる桐嶋さんの笑顔に
どきりと胸が動いた。


「な…こんなの俺の運だろ!」

「そうだな。今年のお前が凶なんてありえない。」

「っ…」


自信満々に言い切る桐嶋さんに
顔に熱が集まるのが分かる。


「俺と一緒にいるんだから
 お前に大吉以外なんてありえねぇよ。」

「…どんだけ自信過剰なんだよ。」


そう呟いてから、ふと気になった。


「そういやあんたまだ開いてないだろ。」

「あぁ、そうだな。」

「開いてみろよ。」


「開かなくても分かるさ。」

「なんでだよ。あんたこそ凶なんじゃないか。」


そういった俺に桐嶋さんはおみくじを手渡してくる。
その無駄な自信を崩してやろうと
渡されたおみくじを開く。


けれど…


「…まじかよ。」

「お前と同じだよ。」

「は?」



「お前と一緒にいるんだから、
 俺に大吉以外はありえない。」


そう言ってのけた桐嶋さんの言葉が、
大吉をひいたことより嬉しかったなんて…絶対認めねぇ。



*END*

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